第3章54話:戦闘

「お前たちと争うつもりはない」


と俺は告げ、さらに続ける。


「俺はこの国のダンジョンに用があるだけだ。用が済めば出て行く。そっとしておいてもらいたいものだが」


「そういうわけにはいかないんだよ」


と戦士の男が言った。


その言葉を引き継ぐように、聖職者の女が告げた。


「アンリを討て……というのは、聖女さまのお言葉です。我々はそれに従うのみ」


「その聖女というのは、ルドラール王国の聖女だ。神殿国のお前たちにとっては、よその国の聖女に過ぎないだろう?」


「ルドラール王国の聖女さまは、精霊と交信しております。であるならば、国を越えて、そのお告げに従うべきです」


ふむ……


ゆずる気はないようだな。


聖女や精霊のような、神殿の頂点たる存在による神託やお告げは、絶対の権威を持っている。


理屈でくつがえすのは至難しなんわざだろう。


まあ、そもそも俺が『勇者殺し』という大罪を背負っているのは、まぎれもない事実であるし……


討伐対象として認識されるのは仕方ない。


俺は肩をすくめた。


「……まあ、俺を討つというのならば、相手をしてやってもいいがな。悲惨な結果になることは覚悟しておくがいい」


俺がそう告げると、周囲は失笑する。


「ははは、自分に向かって言ってんのか?」


「悲惨なことになるのは、あなた自身よ」


「なにしろ、こんなにワラワラ集まってきてんだからな」


確かに、人が増えてきたな。


しかも、殺気立さっきだっているヤツも多い。


聖女が敵と認定したアンリ・ユーデルハイトの名は、よほど神殿国において、邪悪なものと認識されているらしい。


「『勇者殺し』くんは嫌われ者だな。こんな大勢おおぜいに殺意を向けられるなんてよ」


「自分のしたことを、あの世で悔い改めることですね」


戦士たちが武器を取り出す。


聖職者たちは、魔法杖まほうづえを取り出す。


……やれやれ。


仕方ない。


ひと暴れするか。


俺は念力格闘術の構えを取る。


そして。


「……ッ!」


地を蹴る。


一番近くにいた男性の聖職者を蹴り飛ばした。


「がっ!!?」


次に戦士が持つ槍を破壊して、殴り倒す。


「ぐはっ!!?」


あっという間に2人を倒されたことに、周囲の反応が変わる。


せせら笑っていた者たちが、一斉に険しい表情になる。


俺は告げた。


「お前たちごときでは、俺は討てん」


さらに周囲を見回しながら、言い放った。


「今すぐ地に頭をこすりつけて、許しをうなら、見逃してやっても構わんぞ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る