第3章53話:神殿国

刃竜ノルドゥーラと別れて、しばらくフィオリト岩原をゆく。


日が暮れた。


テントを張って、野宿をする。


翌日。


朝。


晴れ。


出発を再開した。


数時間ほど歩き、朝が終わって昼になったころ。


俺はフィオリト岩原を踏破とうはした。


リースバーグ神殿国の関所せきしょに差しかかる。


しかし……


「ん……衛兵がいないな」


その関所には衛兵が存在しなかった。


無人の関所である。


用事などで出払っているのかもしれない。


(まあ、フィオリト岩原から通行する者なんて、ほとんど皆無だろうからな。関所を見張っていても仕方ないのだろう)


セルリオン帝国からフィオリト岩原に入るときの関所でも、衛兵の数は非常に少なかった。


ほとんど誰も通らないところを見張るのは、国にとっても無駄だし、衛兵にとっても退屈だ。


警備が雑になるのは当然と言えるかもしれない。


(このまま通るか)


関所に人がいない場合は、素通すどおりして構わない。


俺は関所を通行して、リースバーグ神殿国へ入国にゅうこくした。


―――――リースバーグ神殿国。


人口20万人ほどの小国しょうこく


神殿国しんでんこくという名前の通り、宗教国家しゅうきょうこっかである。


国民の多くがリースバーグきょう信徒しんとであり、【精霊リースバーグ】を信仰している。


温厚な国民が多いが、精霊リースバーグのことを悪く言うことだけはタブーだ。


決してリースバーグを侮辱しないこと。


そこだけ守っておけば、良好な関係を築くことができる。


……と思っていたのだが。


最初に辿り着いた田舎街いなかまち


そこで俺は、いきなり衛兵に絡まれた。


2人の衛兵だ。


男1人、女1人という組み合わせである。


「お前、アンリ・ユーデルハイトだな? ルドラール王国から追放されたという」


と衛兵の男が尋ねてきた。


「そうだが」


と俺は肯定した。


すると衛兵の女が言った。


「あなたにルドラール王国から指名手配しめいてはいおよび、討伐要請とうばつようせいが出ているわ」


そのとき、衛兵の男が周囲の人間に向かって叫ぶ。


「おーい、こいつがあの、【勇者殺し】のアンリ・ユーデルハイトらしいぞ!!」


すると。


通りすがりの人間が立ち止まる。


戦士や冒険者のような身なりの者や、聖職者のような身なりの者が、こちらに近づいてきた。


「こいつがアンリだって?」


「聖女さまに指名手配されてるっていう?」


「聖女さまが『討伐せよ』って命じておられるのよね」


「じゃあるべきだな。俺がやってやるよ」


これは……


ルドラール王国の聖女から、完全に手を回されているようだ。

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