第3章52話:使い魔

刃竜は怪訝けげんそうに眼を細めた。


尋ねてくる。


「目的はなんだ?」


「お前の飛行能力やブレス、その他の戦闘能力が欲しいということが、まず一つ」


「……」


「もう一つは……俺は、誇りを大事にする者が、純粋に好きだからだ。誇りや矜持きょうじやプライドでは腹もふくれんし、ときに不器用さにもつながるものだが……人生を良く生きるには、そういう精神論せいしんろんも、大事にすべきだと俺は思っている」


「だから我を仲間にしたいと?」


「そうだ」


と俺は肯定した。


さらに俺は告げる。


「俺にしたがうならば、いずれお前の知らない、面白い景色を見せてやる。ゆえに、俺についてこい。ノルドゥーラ」


「……」


刃竜は、しばし沈黙していた。


やがて口を開く。


「我をしたがわせようなどと、無礼ぶれいにも程がある。……が、面白き人間よ」


くつくつと刃竜が笑ってから、続けて告げた。


「おぬしほどの戦士が見せる景色にきょうが湧いた。……ゆえに、よかろう。おぬしのもとに身を置くことにしよう」


「そうか」


俺は満足げに微笑んだ。


ノルドゥーラにかけていたサイコキネシスを解きながら、告げる。


「これからよろしく頼むぞ、ノルドゥーラ」


「ああ」


俺とノルドゥーラが、使い魔の契約を交わす。


かくしてノルドゥーラが、俺の使い魔となった。


俺は告げる。


「まあ、そうはいってもしばらくは、ここで待機してもらうことになる。俺はリースバーグ神殿国しんでんこくに用があるからな。先にそちらを済ませたい」


「そういえば、おぬしがここに来たのも、神殿国に行くためであったな。いったい、かの国へ何用なにようなのじゃ?」


「欲しいものがあるのだ。それは神殿国でしか手に入らない」


俺は詳しい理由はぼかした。


ちゃんと話そうとすると、俺が神殿国に行くことが、前世の知識に基づいていることも話さなければならない。


さすがにまだ俺が転生者であることを話すのは早い。


そういううえばなしは、もう少し親交を深めてからじっくり語りあったほうがいいだろう。


「そうか。ならば我は、しばらく待機していればいいのじゃな」


「暇つぶしの仕事が欲しいなら、用意してやってもいいが?」


「いいや、構わぬ。静かに時を過ごすことには、慣れているからのう」


ノルドゥーラはフィオリト岩原がんげん支配者しはいしゃとして、長きに渡ってこの地にとどまっていた。


何もない平原で、日々を送れる程度には、退屈な時間に慣れているのだろう。


刺激のない無為むいな時間を延々と過ごすのは、俺だったらがたいことだな……とひそかに思った。


「では、俺はこのままリースバーグ神殿国へ向かう。また後日ごじつ会おう」


「ああ。気をつけてな」


とノルドゥーラに見送られ、俺は神殿国への方角へと足を向けるのだった。

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