第3章51話:提案

岩の台座のうえに叩きつけられた刃竜。


俺はサイコキネシスを継続して発動し、地面に這いつくばらせた状態を維持する。


「ぐ、ぬぬぅ……ッ!!」


刃竜が必死で抵抗しようとする。


が……サイコキネシスの強力な重圧には、あらがえない。


刃竜は驚愕に打ち震える。


「な、なんじゃこれは……!? われが、動けぬ……じゃと!?」


「これが俺の全力だ」


と、俺は不敵な笑みを浮かべる。


さらに告げた。


「お前は言ったな――――人は竜を見上げることはあっても、竜を見下ろすことはないと」


直後、俺はサイコキネシスを使い、自身の身体に浮力ふりょくを持たせる。


俺の足が大地から離れ、空へと浮遊していく。


地上から20メートルほどの位置まで浮遊してから、滞空たいくうした。


「俺は竜を見下ろすことのできる存在だ」


地に這いつくばる刃竜。


それを俺は空から、眼下がんかに見下ろす。


人間が竜を見下ろせないという、語られた摂理せつりを否定するように。


「貴様……もしかして、勇者か?」


と刃竜が尋ねてきた。


俺は答える。


「勇者ではない。むしろ、俺は勇者を殺した側だ」


「殺した……じゃと?」


「ああ。ウソだと思うなら、好きにすればよいが」


「いや……我をここまで圧倒する強者ならば、勇者すら狩ることもできよう」


と納得したように刃竜が答える。


さらに刃竜は告げた。


「まさか、人間にが全力を防がれ、あまつさえ空からとされるとはな……完敗じゃ。殺せ」


命乞いのちごいはせんのか?」


「我は誇り高き竜であるぞ。みっともなく生にしがみつくつもりはない」


ふむ。


竜は気高けだかき魔物であるというのは伝承にも伝えられるところではあるが……


実際に竜が己のプライドに準じているかというと、個体による。


刃竜は、どちらかといえば矜持きょうじを大事にするタイプのようだ。


(こいつは、惜しいな)


と俺は思った。


戦闘能力の高さ。


誇りを大事にする精神性。


飛行能力やブレス。


刃竜ノルドゥーラの持つ、さまざまな性質は、とても魅力的だ。


だから俺は、地面に着地したあと、提案することにした。


「なあ、刃竜よ。俺の配下につかないか?」


「……何?」


「お前を殺そうと思っていたが、気が変わった。俺の仲間になれ」


俺はそう要求する。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る