第3章48話:刃竜

刃竜のいる方角へと歩いていく。


途中に二度、三度と、かまいたちの刃風はふうが飛んできたが……全て回避した。


そうして俺は、刃竜のもとまでたどりつく。


――――巨大な岩の台座だいざが安置されていた。


半径100メートルはあるだろう岩石の台座。


その台座のうえに、四本足よんほんあしでたたずんでいるのが、刃竜である。


極めて巨大なサイズのドラゴンだ。


頭から尻尾の先まで、全長70メートルはあるだろう。


全身が白銀の色をした甲殻こうかくに包まれている。


発達した腕。


鋭利なツメ。


長大ちょうだいな尻尾。


大きな翼を持っており、その両翼の先端には、切れ味が鋭そうな刃が生えていた。


刃竜の顔が、俺を見つめる。


甲殻に覆われた容貌ようぼう


赤色の鋭い両眼りょうがん


後頭部には二本のツノが湾曲しながら伸びている。


(なるほど……これが刃竜か)


すさまじい迫力だ。


魔族と並んで、魔物の頂点に君臨する種族――――竜。


気が狂いそうになるほどの膨大な魔力をうちめていることが、容易にわかった。


が攻撃を回避するとは、なかなかやるではないか」


開口一番かいこういちばん、刃竜が賞賛してきた。


女の声のように聞こえる。


めすの竜なのかもしれない。


「我の近くまでたどりついた者は、ひさかたぶりじゃ」


「いきなり攻撃を仕掛けてくるとは、無礼ではないか」


と俺は告げる。


すると刃竜がくつくつと笑う。


「ふっ……戯言ざれごとを。無礼なのは貴様のほうじゃ。縄張なわばりを勝手に侵犯しんぱんしよって」


「侵犯だと? お前が勝手に決めた縄張りを、なぜ俺が避けて通らねばならん? 俺はリースバーグ神殿国に向かって、進むべき進路をゆくだけだ」


おのれのゆく道は譲らぬと? 人間の分際で、竜の意思を無視するというのか?」


「ああ。俺は何者の意思にも縛られない」


俺はそうはっきりと答える。


すると刃竜はせせら笑ったあと、告げた。


「教えてやろう。うぬぼれが、おのれの身を滅ぼすということを。竜を前にしては、人の意思など、吹けば飛ぶような灯火ともしびに過ぎぬということを――――」


「安心しろ、俺の命を消し去ることは不可能だ。お前こそ思い知るがいい。俺を前にしては、全ては塵芥ちりあくたに過ぎないということをな」


静寂せいじゃくが立ち込める。


お互いに戦闘体勢せんとうたいせいを取った。


刃竜が最後に尋ねてきた。


「名乗れ。殺す前に、おろものの名を覚えておいてやろう」


「アンリだ。お前は?」


「ノルドゥーラじゃ。―――ゆくぞ」


刃竜が宣言して、戦闘の火蓋ひぶたが切られた。


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