第3章47話:遠距離

岩原がんげんを歩き続ける。


俺はサイコキネシスの防護膜ぼうごまくを展開していた。


いつなんどき、誰から攻撃を受けてもガードできるように……だ。


異世界は、いきなり不意打ふいうちで死ぬこともある世界。


普段から用心ようじんするに越したことはない。


(特に疲れることはないし、今後はサイコキネシスの防護膜を、常時じょうじ展開てんかいしてもいいな)


と俺は考えた。





歩く。


歩く。


歩く。


途中……俺は気になるものを見つけた。


武器だ。


バスタードソードが転がっている。


ただのバスタードソードではなく、強化がほどこされているようだ。


「冒険者が落としたものか」


と俺は推定する。


さらに歩いていく。


すると、バスタードソード以外にも、さまざまな武器を発見した。


落ちていた斧。


転がるハンマー。


平原に突き立つ大剣や槍。


――――まるで戦場せんじょう跡地あとちだ。


多くの戦士や冒険者が、この平原で命を落としたことがわかる。


彼らの命を奪ったのは、うわさに聞く刃竜はりゅうであろう。


さらに俺は気になる武器を発見する。


「お? これはサトゥベリアか」


サトゥベリア。


別名―――【闇炎あんえんのダガー】。


闇の紫色と、炎の赤黄色が混ざり合ったダガーであり、Aランクのレア武器である。


20%の確率で相手の防御を無視する【防御貫通ぼうぎょかんつう】のスキルが付与されている。


防御がかたい敵に使うと、非常に有効である。


(こんなレア武器が落ちているとはな)


刃竜が殺られた冒険者たちのドロップ品だろう。


せっかくだし貰っておくことにしよう。







フィオリト岩原の中央付近までやってきた。


太陽が天頂てんちょうから大きくかたむき、青空にオレンジ色が混ざり始める。


そのとき。


「ん……」


視界の遠くに、大きなシルエットが見えてきた。


巨大で、翼がある。


――――竜だ。


おそらく刃竜だろう。


俺の進行方向にいるな。


……と思っていると。


「……!!」


刃竜の眼前で、白い光がまばやいたと思った次の瞬間、激しい轟風ごうふうをまといながら何かが飛んできた。


それは白く輝く銀閃ぎんせん――――やいばである。


白くかがやく刃が、かまいたちのごとく飛来してきたのだ。


俺は軽くよこステップをおこなって、そのかまいたちを回避する。


空振からぶったかまいたちは、俺のすぐなな後方こうほうにある岩壁をバターのごとく切断した。


10メートルほどもある岩壁が、なかほどから斜めに崩れ落ち、断面があらわになる。


すさまじいあじである。


(これは……俺に対する攻撃だな)


と俺は判断する。


刃竜による遠距離えんきょり攻撃こうげき


数百すうひゃくメートル先のまとを攻撃できる射程範囲しゃていはんいの広さ。


寸分すんぶんたがわぬ位置にねらつエイムの正確性せいかくせい


ただかまいたちをってきただけであるが、刃竜の強力きょうりょくさをうかがい知ることができる。


……なるほどな。


たしかに、あの竜は強い。


だが、もちろん、サイコキネシスの敵ではない。


「誰に喧嘩を売ったか、思い知らせてやらねばならんな」


と、つぶやきながら、俺は歩みを再開する。


逃げも隠れもするつもりはない。


堂々と、刃竜のいるほうに向かう。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る