第3章45話:岩原

リースバーグ神殿国への道を向かう。


セルリオン帝国の関所せきしょに差しかかった。


――――俺は、さきほど騎士たちに襲撃されたことを思い出す。


ルドラール王国は、よその国にまで俺のことを調査しにきている。


だとすると関所でも、俺のことをマークしている衛兵がいるかもしれない。


(そうであれば面倒だな。関所を避けて通るか……いや)


いちいち逃げ回るつもりはない。


俺を襲いたければ襲いに来ればいい。


全て返り討ちにしてやろう。


そんな心持こころもちで、俺は関所へと向かった。





結果的にいえば……


検問で衛兵に通行を止められた。


しかしそれは、俺が『勇者殺し』であるということが理由ではなかった。


「ここを通るのはやめておいたほうがいい」


と衛兵が告げる。


その理由について以下のように語った。


「この先は、竜の支配領域しはいりょういきだ。君が自殺志願者じさつしがんしゃならば、無理に止めはしないがな」


竜……という言葉を聞いて、俺は思い出した。


この関所を進めば、たしかにリースバーグ神殿国しんでんこくに辿り着くのだが……


途中に【フィオリト岩原がんげん】という名の平原がある。


その平原の支配者は―――刃竜はりゅう


飛竜ひりゅうの一種であり、圧倒的な戦闘力を持っている。


ゲームでは、ストーリーに関わるボスではないものの、倒すと刃竜装備はりゅうそうびが作れる素材が手に入るので、チャレンジするプレイヤーも多かった。


「俺は自殺志願者ではない」


と衛兵に対して、俺は告げる。


「リースバーグ神殿国に向かっているだけだ。だからここを通してもらおう」


「神殿国に行きたいのなら、北をぐるりと迂回うかいするルートを通ればいい。遠回とおまわりになるが、そのほうが安全だ」


と衛兵は提案してきた。


しかし俺は否定する。


「そんな面倒なことをするつもりはない」


竜だろうが魔王だろうが、立ちはだかるなら殺すだけだ。


衛兵は肩をすくめながら答えた。


「そうかい。まあ、そんなに行きたいっていうなら好きにしなよ。一応止めたからな」


そして関所の通行を許可してくれる。


俺は堂々と関所を通って、セルリオン帝国を出国しゅっこくした。






セルリオン帝国を出たら、すぐそこは平原だ。


――――フィオリト岩原がんげん


岩原、という名前の通り、野原のはらのうえに岩が無数に点在している。


むしろ視界の大変が岩石で占められているといっても過言ではない。


岩の色は、白色もしくは灰色だ。


大小さまざまの岩石。


うずたかく堆積たいせきした岩のかたまりや、そびえたつ岩壁がんぺきもある。


そんな無彩色むさいしょくの岩たちをいろどるように、草のみどりがあちこちに生えている。


地面を埋める芝生しばふ


しげみや草薮くさやぶ


岩のうえにも草や花が思い思いに群生ぐんせいしている。


樹木もぽつぽつと立ち並んでおり、立派な緑の葉を茂らせていた。


(景色だけを見れば牧歌的ぼっかてきだな)


と俺は素直に感心する。


しかし、この土地は平和でも牧歌的でもない。


なぜなら生ける伝説ともいえる【刃竜はりゅう】の縄張なわばりだからだ。


よほど戦闘に自信がある冒険者でもない限り、わざわざフィオリト岩原に立ち入ったりしないし……


そういう冒険者も、ひとたび刃竜に挑めば、あっけなくしかばねと化すだろう。


だが……


「俺には関係ないな」


と、道なき平原を歩きながら、つぶやいた。


刃竜と遭遇しなければそれでいい。


逆に、もしも遭遇して、刃竜が俺をがいそうとしてきたときは……サイコキネシスの餌食えじきとしてやろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る