第3章39話:うぬぼれ

(厄介な話だ)


と俺はため息をつきそうになった。


しかし、まあ、別に焦ることでもない。


今の俺に敵など存在しないのだから。


「事情はわかった。それでお前たちは、この俺を、殺そうというんだな?」


俺は立ち上がりながら、そう尋ねた。


「ああ、そうだ」


と騎士団長は肯定した。


俺は告げる。


「一応言っておくが、俺がデレクを殺したのは正当防衛だ。俺が殺されそうになったのを、かえちにしただけだ」


「……戯言ざれごとを」


と騎士団長は、俺の発言を切って捨てた。


弱卒じゃくそつにも劣る魔力しか持ち合わせていないことが、一目でわかる。貴様ごときがデレクさまを返り討ちにできるわけがないだろう?」


「返り討ちにできるわけがない……か。なのに、俺がデレクを殺したと思うのか?」


「ああ。こう勝負しょうぶで勝てないから、卑怯な手を使って、デレクさまをめたんだろう? そうやって貴様は、デレクさまを殺したんだ!」


……デレクを嵌めた、か。


卑怯な手を使って嵌められたのは、俺のほうなんだがな。


まったくどいつもこいつも、デレクのことばかり信じやがる。


それにしても。


「デレクがクズであるという情報は、精霊から聞いていないのか?」


と俺は尋ねる。


騎士団長がすぐさま否定する。


「そんな情報はない」


「なるほど。デレクに都合の良い情報しか言わない精霊なのか?」


「……貴様、精霊さまを侮辱するのか」


と騎士団長が眉をひそめた。


周囲にいた兵士や騎士たちが騒ぎたてた。


「騎士団長、もうっちゃいましょう!」


「こいつ、デレク様を殺したこと、反省してないですよ!」


「最低のクズ野郎よね」


「あたしが殺してやるわ、こんな没落貴族ぼつらくきぞく!」


口々くちぐち罵倒ばとうしてくる。


それに対し、俺は。


「くく、ははははッ!」


大笑たいしょうした。


俺が笑いはじめたことに対し、その場にいた全員が困惑する。


俺は笑いをやめてから、告げた。


「どうやら、己の状況を理解できていないようだな? お前たちごときが、俺を殺すだと?」


さらに俺は続ける。


「うぬぼれるなよ。お前たちのような劣等どもに、俺をつことなど天地がひっくり返っても不可能だ」


吐き捨てるような俺の発言に、騎士団長は顔をしかめながら言った。


「うぬぼれているのは貴様のほうだ。気でも狂っているのか? これだけの数に囲まれて、よくそんな威勢いせいれるものだ」


「取るに足らない雑魚が何人なんにんあつまろうと、俺の敵ではないからな」


と俺は不敵に告げる。

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