第2章35話:宴

夜。


村のあちこちに篝火かがりびともされる。


野外やがいにはたくさんのテーブルと椅子が置かれている。


いくつもの料理や飲み物が作られ、テーブルに並べられる。


俺はテーブルに着き、食事を食べていた。


食べている合間に、次々と村人がやってくる。



「よっ、飲んでるか!」


「あんたは村の英雄だ。たんと食べてくれ!」


「この野菜も貰ってくれ。うちの畑で取れた作物でつくったサラダだ」


「うちがった木の実のジュースよ。ぜひいただいて頂戴!」


「ほんとにありがとな、村を救ってくれて!」



村人たちが一声ひとこえかけてきて、食事を置いていく。


やれやれ。


こうして絶えず話しかけられると、ゆっくり食事もできないな。


村長がそんな俺を気遣きづかって、村人たちに言う。


「おい、そんなに次々つぎつぎ話しかけたら、アンリ殿が、落ち着いて食事もできんじゃろう」


しかし村人たちが肩をすくめる。


「そうは言われてもな」


「一言、お礼がしたいんだよ」


「なんたって村の英雄様だもんね」


その言葉に、村長がため息をつく。


「すまんな、アンリ殿。気を悪くしないでやってくれ。みんな、おぬしに感謝しているのじゃ」


「ああ、わかっている」


ゆっくり食事ができないのは事実だが……


感謝されるのは、悪い気分ではない。


ゲームのアンリなら、キレたり恫喝どうかつしていたりするかもしれない。


しかし、前世の人格が交じり合った今の俺は、村人たちの気持ちも、理解できる。


みんな、魔族から解放されたことが嬉しいのだ。


だったら水を差すこともない。


素直に【村の英雄様】として、感謝と、料理を受け取ろうと思う。





ややあって。


感謝を言いにやってくる村人たちも落ち着いてきた。


俺のテーブルには、村人たちが置いていった料理が山盛やまもりだ。


とても一人で食べきれるものではないな。


そう苦笑していたとき。


やってきた人物がいた。


フレミアである。


「アンリさん」


フレミアが俺のそばに立ち止まる。


「フレミアか」


「はい。お隣、座ってもよろしいでしょうか?」


「ああ。構わない」


フレミアが着席した。

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