第2章33話:試行と帰還

(これで転移魔法を習得できたはずだ)


試しに使ってみよう。


俺は、頭の中でスキルめいを唱える。


(転移!)


とりあえず、地下室から砦の門前もんまえに飛ぶイメージで、転移魔法を使ってみた。


すると――――


足元に魔法陣まほうじんが展開され、光があふれる。


直後。


周囲の景色が一瞬にして切り替わり、やがて俺は、目的の場所へとワープしていた。


砦の正門前せいもんまえ


後ろを振り返ると、砦の外壁がいへきと、倒壊とうかいした居城きょじょうが存在している。


近くには、俺がぶっ殺した衛兵――――ワニの魔族と、ウサギの魔族が転がっていた。


「無事に転移できたようだな」


俺は満足げに微笑む。


転移魔法は、一度おとずれたことのある場所ならば、どこへでも一瞬にして転移することができるチートスキル。


移動手段いどうしゅだんが限られる異世界において、超絶ちょうぜつ便利べんりな魔法だ。


ここで習得できてよかった。





さて。


俺は再度、転移魔法を使おうとする。


転移先てんいさきは、ヒコ村である。


だが。


(俺が転移魔法を使えることは、他人には知られたくないな)


そう思った。


なのでヒコ村のドなかに転移するのはやめておく。


ヒコ村の近くの森の中に転移することにした。


「転移」


そう唱えて、転移する。


ヒコ村が見える森の中に戻ってきた。


そこからは徒歩で、ヒコ村に入る。


すぐ眼前に、人だかりがあった。


フレミアもいた。


「……あ!」


フレミアが、俺に気づいて駆け寄ってくる。


「アンリさん!」


「いま戻った」


俺がそうつぶやく。


そのとき人だかりから、一人の老人がやってきた。


村の村長のようだ。


「ワシはこの村の村長をしている者だ。おぬしがブロース様を殺したという、アンリ君かね?」


「いかにも、俺がアンリだ」


と俺は肯定する。


村長は言った。


「おぬしは砦の魔族を殺すなどと言っておったそうじゃが……その様子だと、砦の襲撃は失敗したようじゃな?」


ん……?


いや、失敗していないが。


どうやら村長は勘違いしているようだ。


村長は続けて言った。


「悪いことは言わん。魔族には逆らうな。あの砦を支配しているローゴス様には、誰も勝てん。命が惜しければ、このまま静かに、この地を去ることじゃ」


「村長。勘違いしているようだが、砦の襲撃は成功したぞ」


と俺は言った。


村長は首をかしげる。


「む?」


「ローゴスも殺した。したの魔族どもも、しらみつぶしに殺したから、ほとんど全滅しただろう」


「……アンリ君。そのようなウソを言うものではない。たとえホラでも、ローゴス様を殺したなどと魔族に聞かれたら……どうなることか」


「本当だ」


と俺は告げてから、証拠を見せることにした。


アイテムバッグから、回収したローゴスの首を取り出す。


それを村長に見せ付ける。


「な、なななッ!!?」


と村長は驚愕きょうがくした。


村人たちや、フレミアも、ローゴスの首を見て唖然あぜんとしている。

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