でっちあげの罪によって国外追放された雑魚貴族、最強の『念力』スキルを手に入れたので、自分を追放に追いやったヤツをぶちのめした後、異世界を気ままに生きていく。

第2章19話：落石

「さて……」

俺は次の目標を、口にする。

「転移魔法（てんいまほう）が欲しいな」

転移魔法は、異世界においては伝説のスキルの一つだ。

勇者しか使うことができない神のスキルとされている。

―――ゲームでは、普通にプレイしていれば転移魔法を習得できる。

ところが、プレイのやり方を間違えると、転移魔法が習得できなくなってしまうことがある。

その場合、とあるボスを倒すと転移魔法を入手できるという、救済措置（きゅうさいそち）が用意されている。

いわゆる【救済（きゅうさい）ボス】と呼ばれるボスイベントだ。

俺が狙うのは、この救済ボスである。

救済ボスを俺が倒して、本来（ほんらい）勇者が得るはずだった【転移魔法】を横取（よこど）りする。

何も問題あるまい。

だって勇者はもう死んだからな。

勇者が得るはずだったモノは、俺が根こそぎ頂（いただ）くとしよう。

「救済ボスがいるのは、たしかセルリオン帝国か」

と俺は思い出す。

さっそく出発しよう。

――――数日後。

森や草原を歩いて。

俺は、セルリオン帝国へと入国（にゅうこく）した。

街道をひたすら歩き続ける。

やがて。

山に差しかかった。

坂道（さかみち）をのぼっていく。

視界の左は岩壁（がんぺき）。

視界の右側は崖（がけ）になっている。崖の下には森が広がっていた。

歩く。

歩く。

歩く。

しばらく歩いていくと。

視界の先で、巨大な岩石に道がふさがれていた。

どうやら落石（らくせき）があったようである。

その落石の前で、途方（とほう）に暮（く）れる女性が一人、いた。

「落石か？」

と俺は話しかけた。

すると女性が振り向く。

「あ……えっと、はい。そうみたい、です」

年齢は……２０歳ぐらいか？

ロングヘアの緑色の髪を、おさげのようにくくっている。

黄色い瞳。

柔和（にゅうわ）な顔立ちだ。少し母性（ぼせい）すら感じる。

庶民の服を着ている。

都会という感じがしない。

おそらく村か、田舎街（いなかまち）の住人だろう。

「私は、この先にある村の住人でして……街へ行って、帰ってくるところだったんです。そしたら、ここに落石があって」

と女性は事情を説明した。

「なるほど」

と俺はあいづちを打ったあと、言った。

「退（ど）け。撤去（てっきょ）してやる」

「え……撤去って……？」

俺は落石の前に立った。

デカい岩だ。

５メートルはあるかもしれない。

なるほどこれは普通の人間に退（ど）かすことは無理だろう。

だが、俺のサイコキネシスならばワケもない。

手をかざす。

サイコキネシスを発動――――、おっと。

忘れるところだった。

サイコキネシスは、人前ではなるべく使わない。

徒手空拳（としゅくうけん）の格闘家（かくとうか）っぽく、カモフラージュすると決めたんだった。

俺は慌てて、ファイティングポーズを取る。

そして落石に向かって、拳を放った。

「ふンッ！！」

ドガッ！

と落石に拳がぶつかる。

それと同時にサイコキネシスを発動し……

落石を粉々（こなごな）に粉砕（ふんさい）した。

「ええええええええええ！！？」

と女性は驚愕の声をあげた。