アメリカ③
放課後、図書室には悠にとって見慣れた子供がよく本を読んでいた。彼女の登校初日、右側前座席に座っていた静かそうな少女だ。大きな丸メガネを掛けていて三つ編みにされた髪はいつも右側に流れて右目に掛かっている。
相手は悠の視線に気づいたようで、本から顔を上げると「こんにちは・・・・・・」とか細い声を出した。悠も「こんにちは」と返す。
「ここにはよく来るの?」
「うん。落ち着いて本が読めるから・・・・・・」
手持ち無沙汰に本をパラパラめくりながら悠はため息を漏らした。ため息が聞こえていたのか「どうしたの?」と少女は尋ねる。
「私、嫌われてるみたい」
「・・・・・・」
「やっぱり日本人だからかな私が」
「私は・・・・・・ユウのこと嫌いじゃないよ」
少女は本を閉じて席を立った。つられるように悠もそれに続く。クラスで浮いていた悠に対しても、なぜついてくるのと聞いてくることはなかった。
「新しい風が吹いたなって感じ」
「風?」
「こういう子もいるんだ、みたいな。私たちと全然違う人生を歩んでるんだろうなって」
「私に対してそう思ってるの?」
「うん」
少女は「レイラよ」と名乗った。「一応あのクラスの学級委員、号令をかけたりするだけだけど」とはにかんだ。
レイラは立っていると悠の身長よりも遥かに高かった。座っていた時の視線より明らかに上を向いていることに気づいたのだ。そのことに対して彼女は何も言わなかったが、本人が気にしているのかどうか分からないので心の中で思うにとどめた。
歩く歩幅が大きいのか、レイラのゆったりとした動きに対して悠は小走りで追いつく。それに気づいたのかレイラの歩くスピードはよりゆったりしたものとなった。二人とも歩けるようになって、レイラはぽつりぽつりと喋り出した。
「あの子たちは別に日本人だからって馬鹿にしてるわけじゃないと思うの。よく分かってないだけで」
「そうなの?」
「そうよ、本当に嫌いなら普段から話題にすることなんてないんだから」
日本とアメリカの仲が悪いのは無問題なのだろうかと悠は首を傾げた。思い返せば今までこの学校に通ってから日本のことを悪く言う人間にあまり出会って来なかったことを思い出した。
「ユウは私たちのことが嫌い?」
そう尋ねてくるレイラに悠はかぶりを振った。ホッとした表情を浮かべた相手はポツリと呟いた。
「なら友達になって欲しいな」
そう差し伸べられた手を前に悠は困った顔を浮かべた。
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