アメリカ④

 テオは突然現れた謎の男に興味津々だった。その独特なオーラを放つその男に何か話しかけてみろよと、裏でコソコソチキンレースをしている同級生がいたので「なら僕が行くよ」と申し出た。こういう時だけカッコつけても何にもならないと囃し立てられながらも、彼の行動にクラス中は注目していたのだ。こういった興味本位でのイタズラは彼らのクラスに限ったことではなく、子供達にとっては日常茶飯時なのである。


「あの・・・・・・」


「なんだ」


 黒スーツに身を纏った男はテオに視線を向けることなく言った。相手にされていないというわけでもないらしい。


「ユウはお金持ちなんですか」


「どうしてそう思う」


「だって、ボディーガードなんてつけてるから。ここには何の危険もないのに」


 そこで男は初めてテオに顔を向けた。その表情はスラッとした体型であるにも関わらず威圧感があった。確かに元軍人という噂が流れるだけある、とテオは思った。


「住む世界が違う、といえば聞こえは悪いが。お前達が見てきた世界と、この娘が見てきた世界にはとてつもないほどの差がある」


「差?どれくらい?」


「お前達は戦場を知らない。しかし娘は知っている。戦いの中を逃げ惑い、必死に明日を生きようと踠いた経験だ」


「XB・・・・・・」


 テオのすぐ後ろには悠が立っていた。音もなく現れるからテオは飛び上がった。それを見てクラスメイトはクスクス笑った。


「人の過去を話すのは良くないことでしょう」


「・・・・・・すみません」


 悠はテオに向き直って言った。


「今のは忘れて。私もあなたと同じがいい」


「僕は君のことをよく知らないんだ」


「それで良い。何なら忘れて」


 ぶっきらぼうに言った悠は未練がましさを感じさせないほど真っ直ぐに、XBと教室を後にした。


 テオはまもなくクラスメイトたちに小突かれながら元の輪に戻っていったが、その頭の中には彼女に対する興味をうっすら持ち始めていた。


 

 悠とXBはショーリの迎えを待つ間、互いに短い言葉を交わした。


「彼らと仲良くするつもりはないのですか」


「ない。どうせすぐ死ぬし」


「・・・・・・」

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