16
ワンフロア低い北館の屋上に転がったサクは、銀色の異形が南館と北館の連絡通路を破壊し、雨の降り注ぐ地面に落ちていくのを見届け、意識を手放した。気付けば救護室代わりのトラックの中で、この戦いは僅かな差で局側が勝利を収めたことを知った。外にはすっかり夜が満ち、死屍累々の街にはもう銃声も怒号も咆哮も響いていなかった。
イブキは死んだ。反対派のリーダーの命はこの世から消えた。
だが、これで彼らの侵攻が終わったわけではない。街の外に控えた幾人かが異形化し、周囲の異形を引き連れてシェルターを目指している。どれほどの規模となるかは不明だが、これから総力を挙げての新たな一戦となる。
当然、サクもそれに参加するつもりだった。だが、シェルターに戻った彼は、シズに会議室へ呼び出された。既に多くの仲間が銃を持って外に戦いに出ている。自分も早く行かなければならないのに。
部屋にはニナの姿もあった。手当の跡が痛々しいサクの姿に悲しそうな、しかし生きて帰ったことを喜ぶ複雑な笑顔を見せて駆けてきた。
「サク、よかった。生き延びたんですね!」
ニナに抱きしめられて驚いたが、顔を離した彼女の瞳が潤んでいることにもサクは目を見張った。彼女は恥ずかしそうに涙を拭い、ガーゼを当てたサクの頬をそっと指で触れた。よかったと囁く彼女は、全身で安堵を表現していた。
そばに立つシズを見上げ、サクは問いかける。
「いったい何ごとですか。僕ももう一度、戦いにいかないと……」
「戦闘より重要な、最後の任務だ」
ついてくるよう促され、歩き出したシズの背をサクは慌てて追う。ニナも一緒に、管理部のエレベーターに乗った。それは普段使用している一般のエレベーターとは異なり、地下四十階より下の階を選べるようになっていた。
シズが選んだのは、最深部の地下五十階。存在は知っていたが、何があるのかは全く未知の階層だ。高速エレベーターはあっという間に地上を離れ、ぐんぐんと地下深くへ潜っていく。
「見事だった。リーダーを失った奴らは興奮しているが、士気は大いに下がっている。必ず私たちが勝つ」
「なら、僕も……」
「言ったろう。より重要な任務がある」
より重要というシズの言葉の意味がまるで分からない。問い返そうとしたとき、エレベーターは扉を開いた。薄暗い廊下がまっすぐに伸び、三人の足音が反響する。隣りを歩くニナは事情を知っている様子で、緊張を表情に宿している。いつもの白衣が、歩くに合わせて軽く揺れる。
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