14
街のあちこちで異形や人やアンドロイドが息絶え、又は破壊されていた。ビル脇に駐車したトラックの陰でようやく落ち着き、水を飲み、怪我の有無を確認する。顔や腕に軽い切り傷はあるが、動けないようなものではない。だが、使い慣れたレミントンは手元にはない。
自分の乗ってきたトラックの荷台に上り、サクはもう一丁の銃を手に戻る。カイから受け取ったモスバーグM500が、最後の武器だ。
「古そうな銃だな」
「手入れはしてあるよ」
「それでいけんのか。替えなら他にあるだろ」
ムジの言葉に、サクは黙って首を振る。次に慣れた銃は、きっとこれだ。隣りに座り込むムジは、ふうんと納得のいかない顔をしていた。
空には俄かに雲が増え、強い日光が遮られている。銃声と爆発音が引っ切り無しにこだまする。サクはモスバーグに弾を込め、初弾を装填した。
「南東C区画、爆破を許可する。総員、五分以内に退避せよ」
無線機からシズの声が聞こえた。第二陣は外側から廃墟に爆弾を仕掛けてもいた。歩兵による制圧が困難と判断した場合、敵ごと瓦礫の中に埋めてしまう算段だ。
街がどんどん破壊されていく。これで全てが終わればいい。
唐突に、異形の遠吠えがあちこちから響いた。二重にも三重にも重なり、ビル壁にぶつかり不気味に反響する。気味の悪いサイレンにも聞こえる叫びは、自分たちに抗議し、敵意を剥きだしにしている。立ち上がったサクの横で、ムジも警戒をあらわに腰を上げる。
「連中、仲間を呼んでやがる」
近くにいた隊員が毒づいた。異形は仲間を集めるという事実は、既に明らかとなっている。敵は街の外にいる異形を仲間として呼んでいるのだ。これに第二陣が囲まれてしまえば一気に攻勢は悪くなる。だから今回は短期決戦が望まれている。
街の中心部の騒動は僅かに収まっていた。中央に集めた敵が数を減らしているだけではない、なにか異様な雰囲気がある。
「西D区画、北A区画の者は警戒せよ、地下道の存在を確認した」
シズの告げた方角で爆発音が響く。反対派は街に地下道を造りあげていた。地下に潜んでいた者が発破をかけ、急襲を仕掛けたのだ。地下道の具合によってはどこから攻撃を受けるかわからない。
指示を受け、サクとムジは一画に向かう。あちこちに人やアンドロイド、獣が血に塗れて倒れている。灰色の空の下では、銃声や絶叫が入り混じる。地面がぐらぐらと揺れ、思わず片膝をついた。前方の味方が地割れに飲まれ、跡形もなくなっていく。遂にはぽつぽつと雨が降り出し、地面の血だまりに波紋が浮く。地下への出入口を発見したという無線機からの声に、武装した敵へ応戦しながら街を駆け抜ける。
街が人で満ちていた頃には大勢で賑わっていたであろう、ショッピングモールに辿り着いた。北側の館と、もう少し背の高い南側の館で成り立っている大きな建物だ。スチール机や椅子の転がる小部屋に入り込む。既に仲間が張っている部屋の隅には、床に人工の穴が開き地下へと階段が続いていた。
「この入口は塞ぐ。中にいた連中は、恐らく既に建物のどこかに潜んでいるがな」
一人が爆弾を設置しながら顎をしゃくった。がらんとした建物の中は暗く、冷え冷えとしている。破れた窓から薄雲を割る日光が差し込んでも、陰鬱とした空気が満ちている。
「よし、ワンフロアずつ見て回る。俺は……」
言いかけたムジが膝を折った。その身体を抱え、サクは横倒しのスチール机に身を隠す。幾発かの銃弾が壁にぶつかり穴を空ける。咄嗟に銃を構えた仲間の一人がムジを撃った敵を捕捉し、射撃した。廊下から銃口をのぞかせていた相手は、くぐもった呻き声を発して動かなくなった。
「くそ、油断した」
歯を食いしばるムジの右腿は後ろから撃ち抜かれ、たちまち防護服は赤く染まる。この服はあくまでリーパーから身を守るものであり、銃撃から人を保護する力はない。
サクは腰の装備から包帯を取り出し、ムジの腿に強く巻きつけ止血する。出血はさほど多くなく、すぐに血は止まり安心したが、この怪我では満足に動き回ることはできない。ムジは一人で離脱するといったが、仲間の一人が彼に肩を貸した。サクにムジを心配する気持ちはあるが、自分も戻るという台詞は言えなかった。それを理解したムジはサクの肩を軽く叩き、「死ぬなよ」と不敵に笑った。
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