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 嘗て訪れた廃墟の街は、そう遠い場所ではなかった。それでも自動車を使い半日は移動しなくてはならない。未明にシェルターを出ても、到着する頃には陽は高く昇っているだろう。がたがたと揺れるトラックの荷台で荷物のように肩を寄せ合うムジに、サクは小さな声で話しかけた。

「驚いたよ。ムジが僕のことを気にかけてたなんて」

「調子に乗るなよ。俺の良心の問題だ」余計なこと言いやがってと毒づくムジは、ヘルメット越しの表情を苦々しく歪める。「単に後味が悪いと思っただけだ」

 どうしても苦言を呈さなければ気が済まない様子は、いつまで経っても素直じゃない。人間の中で唯一防護服を着ていないサクは、軽く息を吐いて膝を抱えた。平坦な土地に入ったのか、車体の揺れは小さくなった。周囲にはムジと同じ格好をした隊員と、数体のアンドロイドが乗っている。人員不足を補うため、開発過程で使用が許可された機体だ。アンドロイドはみな防護服でなく戦闘服を着ているが、まるで人と区別がつかない。よく出来ているものだと思う。

「……結局おまえは、局の側についたってことか」

 ムジがぼそりと聞き取りにくい声で言った。

「そういうわけじゃない」

「そうなるだろ、じゃあなんのためにここにいるんだよ」

「僕はどっちの味方でもない。けど、イブキにシェルターの人間が殺されるとしたら、それは阻止したい」

「おまえは、一度裏切られただろ」

 視線を合わせると、ムジはその目を逸らした。ムジの言う通り、一度自分を見捨てた局の味方をするのは不自然かもしれない。

「だから、局の味方をしてるつもりはない。僕は僕のしたいようにしてるだけだよ。生きていてほしい人たちが、生き延びて自由に外に出られるように」

「ニナのことだろ。かっこつけやがって」

「そこにはニナだけじゃない。ムジも入ってる」

 ぎょっとするムジはこれ見よがしに舌打ちをし、今度は顔を背けた。

「勝手に恩を売るんじゃねえよ」

 そう言い捨てる彼にも、生き延びてほしいと思った。

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