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突然の行動に男たちは腰を上げ、混乱をめいめい口にする。サクもぼんやりとシズに視線を向けたが、彼が自分に頭を下げる理由が分からなかった。
周囲に促されて顔を上げ、立ち上がった彼は徐に言った。
「爆発事件の晩、偽の呼び出しを行ったのは、私だ」
サクの隣りで、ニナも自分の口を両手で覆い目を丸くする。サクにも考えが及ばなかったが、仮にあれがシズの仕業なら納得がいく。彼の権限なら、偵察部隊の下っ端に通信を行い、履歴を削除するなど容易いことだ。
「二年前にアンドロイドの破壊を行う手はずを整えたのも私だ。内部の詳細を奴らに提供し、後の捜査の規模を敢えて縮小するよう指示も出した。少数精鋭の彼らの中には元技術者もいて、アンドロイドの顔をアサギのものに変えることが可能だった」
「なぜ……なぜ、そんなことを」
引きつった声を上げた仲間を一瞥し、彼は重苦しい声を発する。
「家族が、人質だった」
シズにはシェルター内では珍しく、妻との間の実子がいる。だが娘は身体が弱く、早いうちから医療の手を借りねば生きられない状態で生まれた。シェルター内の医療制度はお世辞にも豊かではなく、当時管理部に配属となったばかりのシズには払いきれない医療費がかかった。何としてでも娘の命を救いたい一心の彼に近づいたのが、カルム率いるREGの人間だった。シズは金を受け取る代わりに、自分の知る管理部の内部事情を彼らに提供した。
当然、彼らの要求がそれきりで済むはずがなく、一度の弱みにつけ込まれることになった。
「今も奴らと繋がっているのか」
唾を飛ばさんばかりの仲間の台詞に、シズは首を振って否定する。
「カルムの死後、接触はない。……投獄された彼の担当に、REGの息がかかった者をあてたのも私だ。だが、毒殺するとは思わなかった。カルムは仲間とみて安心していただろうが、あれは反対派に寝返った者だったのだろう」
「あの」
興奮や困惑に陥る彼らに向け、ニナが立ち上がり片手を挙げて声を掛ける。彼女は必死に状況を整理しようとしている風だった。
「なぜ、REGや反対派は、彼……サクに容疑をかけようとしたのですか」
シズの様子は場違いなほどに落ち着いていて、普段の威厳は少しも欠けていない。彼の決意の強さが明らかだった。
「私も詳細を知らされたわけではないが、反対派はもとから研究所の破壊を計画していた。そして都合よく超耐性の者が現れた。爆破事件などを起こせば、まず追放は免れない。罪をかぶせて超耐性をシェルターからはじき出し、ついでに仲間に取り入れようとしたんだろう。一石二鳥だ」
それだけのことで。サクはぼんやりする頭で思った。たったそれだけの理由で、こんな目に遭わされたのか。
「それなら、なぜREGのリーダーが捕えられ、そのうえ毒殺されたのですか」
「二派は協力関係を結んでいたが、主に操っていたのは反対派の方だ。カルムの存在が邪魔になり、騙して局に捕えさせた。後に必ず助けるとでも言ったのだろう。だから奴は自分の仲間……信奉者とも呼べる者が運んだ水を、何の疑いもなく口にした。裏切り者だとは微塵も疑わず、自分を救助しに来たのだと信じたのだろうな」
「この裏切者め!」
こぶしがテーブルに叩きつけられる音が響いた。血管の浮き出た顔を真っ赤にした一人が、すさまじい形相でシズを睨みつけている。当の裏切者であるシズは反対に飄々とした風情で、その視線を真っ向から受け止めていた。
「自分が何をしたのか分かっているのだろうな。当分監獄からは出られないと思え!」
怒号の中で、会議は予定外に中断することとなった。
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