第20話 忘れられない光景

「兄さん僕大きくなったら、兄さんみたいになりたい」

「努力し続ければクロもいつかは、僕みたいになれるよ」


これはクロの過去の記憶、2度と戻ることのない記憶の一つ。彼が人生で一度も勝つことができなかった男との忘れられない思い出。


最後の思い出は燃え盛る炎の中、自分を逃してくれる思い出


「……できるだけ……遠くに……にげ……ろ」

「兄さんッ」


その後できる限り遠くに逃げた。それこそが後世に名を残す英雄が英雄を目指すに至る経緯だった。


だからこそクロは自分とルークは似ていると感じる。目標とする存在が兄であり、兄の才能に諦めを感じているということで。


クロの戦闘を見てルークが感じたのは、確信だった。クロと会う前のルークならこの戦闘を見れば自身の才能のなさを嘆いていただろう。しかし今のルークは自分がクロと同じ強さを手に入れることができるという確信があった。


brain accelerate

ルーカスに勝つために必要な魔法。クロ曰くこれはクロのオリジナル魔法だそうだ。だからこそ発動条件やリスクなども全て理解しているという。


悪鬼とクロの戦闘が終わりルークは精神世界で一人特訓を開始する


"brain accelerate"


直後魔法の発動がキャンセルされルークに強い負荷がかかる。普段なら傷がすぐに治る精神世界ではあり得ないであろう、痛みが消えないという今の状態は魔法発動の失敗を意味している。


脳への負荷、これは例え精神世界であったとしても影響を変えることはできない。


『魔力操作を完璧にすることでしかbrain accelerateは成功しない、ただ炎帝の鎧を俺の指導ありとはいえ2ヶ月で習得したお前ならこの魔法も使えるようになるはずだ』


ルークはクロの言った言葉を思い出し、魔力操作の修行を始める

                                 

(炎帝の鎧を習得して、何でもできるような気がしてた。でも違う、まだ上がある。クロの言うことを信じて進み続ければ俺はまだまだ強くなれる)


今のルークにはクロと出会う前のどこか諦めているような雰囲気はなく前だけを見て突き進む覚悟が決まっているようであった。


ルークの体を使っていたクロが倒れてからシィーラとエータは二人で話していた

「あれは本当にルーク様だったのでしょうか?」

エータの質問にシィーラが答える


「魔力に関しては間違いなくルークのものでした。しかし話し方は似ても似つきませんでしたし、戦闘スタイルに関してはルークの最終目標に近いものだったと思います」

「それにしてもシィーラ様の首さえ元に戻してしまうとは、仮にルーク様でなかったとしてあれは誰だってのでしょうか?」

「どういうことですか?」

「文字通りですよ、仮にルーク様の肉体を奪って動いていたとしても、死んだはずの人間を蘇生しさらには、悪鬼を退けるほどの存在、現代にそれほどの使い手が果たして何人いるでしょうか?」


エータに続くように第1軍のうち一人が声を上げる


「そもそも時間の逆行にはかなりの魔力コントロール練度を必要とします」

その言葉にシィーラが同意する


「ルークは確かに最近かなりコントロールの練度を上げていますがそれでもあの魔法の発動にはより緻密なコントロールが求められるでしょうね」



「それを加味して冷静に正体を考察するなら理国や魔国の英雄クラスの人ということでしょうか?」

「それにしては体術のレベルが高すぎる気がするんですよね」


エータの言葉に対して先ほどとは違う隊員が声を上げる


「こんな場で言うことじゃないかもしれないんですけど、理国や魔国の人間って体術を軽んじて魔法こそが正義とか言ってる人が多いと思うんすよね、それこそ魔法の練度が高い人ほどそういう事を言う印象があって…」


シィーラがその言葉を肯定する

「魔国の人間から見てもその印象はありますからね」



ここまでの話、最近の記憶そこからシィーラが導き出した答えは………


「転移魔法が完成したので今から武国の大病院に飛びます。続きはまたの機会に」


シィーラは出た答えを他者に言わない、ルークが起きたときにそれを聞こうと考えるのだった。


武国に帰ってからシィーラとエータは魔物の森で起きたことをルーカスに伝え、病院に負傷者を運び出した。幸いにも死者が出ることはなく回復魔法によって大小様々な怪我が直された状態で、次の日にはルークを除く全員が目を覚ました。


3日たってもルークが目を覚ますことはなかった。病院の関係者が言うには

「私たちの回復魔法はその人の器に魔力を流し込んで体全体に治癒の効果を付与するものなんですが、魔力がなくても魔力を這わせることは可能ですからコニー様に関しては問題ないのですが………ルーク様に対しては魔力を付与するにはルーク様以上の魔力制御の力が必要ですし、魔力を這わせようにも全身を自身の魔力で覆っているために魔力を這わせることが難しいのです」


と言っても少しずつ回復は進んでいるらしく後数日で目を覚ますとのことだ。


魔物の森での戦闘から7日ほど経ちルークは目を覚ます









  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る