第19話 笑う最強と笑えない悪鬼
"炎帝の鎧"
クロがそう唱えた刹那、悪鬼を囲むように炎のサークルが出来上がる。
「『外野を狙われると面倒だからな、対策させてもらうぞ』」
1対1の局面を強制的に作り悪鬼との戦いに集中し始める
「『それにな、ここから先の魔法はvsルーカス戦の切り札にさせる予定なんだ。報告なんてされたらたまったもんじゃない』」
「コノサキノコトヲカンガエルヨユウガアルノカ?」
「『悪いが元々人類最強だったんだ。お前ごとき相手取るぐらいわけないさ』」
「『覚悟はいいか?』」
クロが問う
悪鬼は
「コイ」
クロの誘いに乗る、それをこれから1年以上後悔することになるのだが悪鬼はそのことを理解できない。未来のことなんて誰もわからないのだから。例えクロや悪鬼であっても
「『行くぞ』」
"brain accelerate"
クロの蹂躙が始まる
♢
悪鬼は困惑していた。目の前の男が魔法と推測できる詠唱をした。その直後から視界が一切定まらず、痛みだけが全身を巡る。
悪鬼は天性の力のみで戦う魔物である。だからこそ直感に優れ、危機を察知し、時には危険な場所に自分から突入していく。だからこそ恐怖の対象であるとされるのだが、この戦いではそれすら意味をなさない。気づけば体に10を優に超える連打を叩き込まれている。悪鬼にできることはこの力に時間制限が存在することを願い、連打が途切れるのを待つことだけだった。
♢
シィーラは監視魔法を駆使して炎サークルの中の戦いを見ていた。自身の理解が及ばない次元での戦闘、そこで感じたのは強烈なまでの劣等感と、それに劣らない羨望であった。さながら幼子がヒーローに憧れるときのように、シィーラはルーク(クロ)を見入っていた。
(僕は悪鬼を相手に何もできなかった。バカなことだけど、慢心していたのかもしれない。僕の判断能力や転移魔法は戦場の最前線にいる敵にも通用するのだと。でも、今目の前で戦っているルークの姿をした誰かにそんな慢心はない。あの悪鬼を相手にして圧倒しているのに、攻撃の手を緩めない。自分の勝利を最後まで疑い続けている)
それこそがシィーラの求める強さだと気づいた。これこそがルークに好きになってもらう1番の近道だと。
(この力があればルークも私を求めてくれる。私を必要としてくれる。頼ってくれる。任せてくれる………待ち遠しいなぁ)
シィーラは恍惚した表情を浮かべながら、クロの蹂躙を見続ける。
♢
(これが俺の求めるべき完成系、これをあと1ヶ月でマスターする……)
この時のルークは自信は全くと言っていいほどなかった。しかし今のクロに強い憧れを抱いた。
(俺もあんな風に動けたら)
クロが言った"brain accelerate"の仕組み、それをルークは自身の中で噛み砕き、精神世界で実践していく、全てはルーカスを倒すために。
自身の努力の価値を示すために
♢
無限にも思えるようなクロの連打は、悪鬼を倒すまでには至らない。それでも悪鬼が撤退を決意するのはそう難しくない。
(イマノオレデハカテナイナ……)
そう判断した悪鬼は転移魔法を発動させようとするも、その魔法をクロによってレジストされる。
(ドクジノカイシャクガマジッタ、マホウジンダゾ。ナゼレジストデキル?)
観察はこの場面でも裏切らない。何千何万と魔法陣を見てきたクロは、発動しようとしている魔法の種類が分かれば、例え改変された術式であろうとレジストすることが可能である。
(オクノテヲツカウカ?ダガカテルカクショウガナイイジョウトクサクジャナイナ)
そうして思考を固めた直後、悪鬼は殴り飛ばされる。悪鬼はその勢いを利用して、距離を取り逃げていく。森の奥深くへと
♢
クロは初めての試み、そしてルークでの体で初めて使った魔法、その負荷を受け悪鬼に撤退を選択させた。もはやクロは一歩たりとも動くことはできず、地面に寝そべっていた。
「『助けられたな』」
あの状況まだ追い込んだ悪鬼の目は、いざとなればこの状況を打開する方法があると言わんばかりの余裕であった。それゆえに借り物の体で応戦するクロは短期決戦を仕掛けその無謀な賭けを制した。いつものように死ぬことを恐れずクロは戦った。
(もう体も動かないな)
今持っている全てを出し切って戦った。既に体力を使い果たしたルークの体を意志の力だけで動かしたのだ。反動で動けなくなるのも当然であった。しかしクロにはまだやり残していることがある。
"癒しの願い"
クロがその魔法を発動した瞬間、腹に穴が空いていたコニーや隊員の穴が塞がり、ルーク以外の全員の負傷が回復する。
そこでクロの意識は途切れる。意識の途切れる最後のクロの表情は達成感からか笑顔であった。
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