第18話 悪鬼と借り物の英雄の前哨戦

悪鬼は感じた。目の前の男は先ほど瀕死にまで追い込んだ男よりも、弱いのではないかと。

それは力も去ることながら意思が弱い。自分を殺そうという意思が欠如している。まるでそこに存在しないと錯覚するような存在感の薄さ。と思えば自分を確実に殺す一撃を繰り出してくる。

死にかけの存在が自分に死ぬイメージを植え付けてくる。悪鬼はそれを許すことができなかった。故に目の前の存在を殺すための一撃を放っても、それを確実にいなしてくる。


「オマエメンドウダナ」

「『こっちからすればこの人数守りながらの殺し合いは少々厳しい、少しぐらい手心を加えてくれてもいいぞ』」

「ドノクチガイウ、ソモソモオマエガシネバオワル」

「『こっちは借り物の体で戦っている、貸手の願い叶えないワケにはいかない』」

「オマエカラサツイヲカンジナイノハ、ソノセイカ?」

「『使える手札は全部使う派なんだ。俺は』」

「マモノノオレヨリヒキョウナノハ、ドウナンダ………」

「『褒め言葉として受け取っておこう』」


会話しながらも相手を確実に殺そうとする3人の戦いは凄まじいものへと変化していく、今がまだ前哨戦かのように


シィーラには何も理解することができなかった

自分の目の前にいるルークが、普段と違う。

動きの質、絡めての違い、受け身の取り方、話し方、そのどれを取っても違う。話し方以外はまるでルークの目指す最終地点のようなイメージを見ている。


「ルーク様の様子がどこかおかしいようですが?」


エータがシィーラに尋ねる


「私もそう思います。普段のルークは口が悪い時こそあれど、あんな砕けた話し方は滅多にしません。それにステップが違いますね。最近のルークは正解を探すようにいろんなパターンのものを試していますし、何より回避優先のステップなんてほぼ踏みません。カウンター優先のステップがルークの中心戦術ですから。それに器用に敵の攻撃を捌く技術はまだ持っていないとルーク本人が言っていましたから」

「……シィーラ嬢が言うと説得力が違いますね……」


ルークの動きが違う、それは当然だろう。なんせ体を動かす意識がが違うのだから。


ルークは精神世界でクロと話していた


「今の状況ってどうなってるんだ?」

ゴブリンキングを倒し、寝ていたことで現状を理解していないルークがクロに尋ねる

「あの変態が悪鬼と戦ってる。シィーラ嬢のサポート込みでギリギリって感じだ。長期戦になれば苦しいのは自分だと理解してあの変態も策を講じてるな」

「悪鬼って……不死者の悪鬼か?なんでこんなところにいるんだ?」

「俺にもわからんなあいつは俺が生きていた時も突然現れては殺し奪う理不尽なやつだった」

「殺せなかったとしても撃退は出来そうか?」


ルークが尋ねる


「………厳しいと思う」

「なんでだよ?」

「悪鬼がシィーラ嬢の発動しようとする転移魔法の解析を進めてるおそらく発動がキャンセルされるな」

「クロ俺は今起きれるか?」

「その傷で強者との実践やめた方がいいだろうな」

「それでも俺は知り合いが殺されて行くのを見てるだけなんてできない?」

「……それはなぜだ?」

「明日の寝覚めが悪くなんのが気にくわないからだ。期待したのはなんだ?人を救いたいとからとかか?期待に添えなくて悪いが、俺は正義だの大義だの語るような人間じゃねぇよ」


クロは思い出す


『たくさんの人の笑顔が見たいから私は人を助けるんです』

クロの遠い記憶、自分の弟子が自分に言った言葉。それに比べればルークの言葉は幼稚で、自分本位で他者のことなどまるで気にしていないような。しかしその言葉に隠れた優しさがあることもクロは理解している。そんな今の弟子を見てクロは


「………助ける方法があるかもしれない」

「本当か?」

「でも確証はないそもそも俺を信じてもらわなきゃ行けないんだが……」


ルークは


「……今更信じてないなんて言わねぇよ」


尚もルークは続ける


「お前から色んなことを学んだ。戦い方、精神、努力の力、細かい技術にしろ、なんにしろ、その全部が今の俺を形成してるんだ。兄さんに勝つそのためにここを生きて出るんだ。みんなで帰るんだ。たとえお前が悪魔だろうが俺は俺の全部をお前に賭けるぜ」

「……本当にいいのか?」

「もちろんだ」


その瞬間ルークは再び眠りに落ちて行く。それに抗おうとするがこの2ヶ月信じて聞き続けた声が「安心して寝てろ」というので完全に眠りについた



賭けとも言える意識の変換。失敗すればルークの精神が壊れていたであろうそれを成功させたクロは間一髪のところでシィーラを守り悪鬼と戦っていた


(最低限は仕込んだ甲斐があったな、俺がこの体を動かしてもなんの問題もない。魔力量や、身体能力に差こそあれ炎帝の鎧も使えるようになったんだ、よく馴染む)


それはルークの2ヶ月の特訓による明確な成果だった。


(にしてもコイツ面倒だな、俺の煽りにも乗らず、俺がズルして使ってる殺気隠しの一撃にもちゃんと対応してくる。魔物にしてはちゃんと考えて戦ってるな)


殺気隠しのタネは至って単純である。攻撃の瞬間だけは今は寝ているルークの意思を出しているのだ。


ルークの意識は寝ているのだから、それは意思のない攻撃となる。それは強力ではあるが弱点も存在する。


攻撃に関しては今までルークが積み重ねた基本的な型の攻撃しか行えないというもの。つまりこの2ヶ月の努力を悪鬼にぶつけている状況である


この膠着した状態をクロはよしとしていない。どこかで仕掛けるべきだと考えるが、目の前の悪鬼を見ると現状互角なことが不思議なほど強い殺気を放っている。それでもクロは今までと同じように自分を信じ、攻め方を変えて行く















  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る