第35話 お茶会には祝福のピーチゼリーとヨーグルトムースパフェ

 ミノタウルスのステーキでお腹を満たした後、後片付けをしつつ、私、宵闇の魔女様、オウカ様の三人でお茶の準備をする。なんとも凄い面子なのだが、誰一人として私に作業を押し付けず、お茶は宵闇の魔女様、洗い物はオウカ様、私はスイーツ担当として祝福のピーチゼリーとヨーグルトムースの二層のパフェを作る。


 祝福の桃の提供は宵闇の魔女様でピーチゼリーもある、ヨーグルトムースはオウカ様の空間ポケットから出してくれたので、生クリーム以外は殆ど盛り付けの作業に近い。

 それでもオウカ様が出してくれたキッチンで三人それぞれに準備するのは、正直楽しかった。思わずここが迷宮ダンジョンだというのを忘れてしまうほどに。


 宵闇の魔女様がテーブルとソファを三つ出してくださって、本当にちょっとした隠れ家的なカフェになってしまった。いや、まあ、ミノタウルスを処理したのも綺麗にしたからこそだけれど。


 グラスに桃ゼリーを入れてその上にヨールグルとムース、生クリーム、ジェラートと祝福の桃を一口サイズに切って盛り付ける。ミントも添えてみた。

 宵闇の魔女様が用意してくれたのは様々なハーブを使ったお茶で、スッキリミントをベースにした香りだった。


 一口、食べると桃の甘みが体の疲れを癒してくれる。さすがは祝福を受けた桃だわ。甘みと柔らかさが違う。この甘さに対してヨーグルトムースの酸味が良い感じだし、サッパリとしていて美味しい。ジェラートも甘すぎないものを使っているので、美味しい!


「この桃は良いできだな」

「でしょ! 私が丹精込めて育てたのだから!」

「魔女様が?」

「そうよ。丹精込めれば植物はとっても美味しくなる。昔、貴女があのどうしようもなく不味い南瓜を美味しくしたのを見て、料理研究に目覚めたのよ」

「それは光栄です」


 魔女様も美味しそうにパフェを口にする。嬉しそうに食べているのは、隣に好きな人がいるからもあるのだろう。


「だから私は伴侶にするなら、自分よりも料理が美味しい人だって決めたのよ」

「あ、それでオウカ様に」

「そう! この人の料理はとっても美味しいのよ。発想も斬新で、すぐに好きになったわ」

「それは料理人冥利につきる。だが……」

「そ、それなら! まずは料理研究家として、相棒パートナーとなる関係はどうでしょう?」

相棒パートナー?」

「まあ、なんて良い響き」


 オウカ様はキョトンとしているが、宵闇の魔女様は乗り気だ。


「はい。お二人とも趣味は同じようですし、今後も定期的に料理作りや、素材の情報交換などを行うのです。関係性は恋人や伴侶とはちょっと違うかもしれませんが、まずはお互いに一緒に居る時間を増やしてみるところから関係を築くのだって……その悪くないのでは?」


 勢いで言ってしまったが片や呪った魔女様と、呪われた料理冒険者。すでに色々拗れてしまったので、今さら仲良くなんて──。


「いいな。料理のことであれば、自分は是非もない」

「まあ! 嬉しいわ」


 あ。全然大丈夫だった……。料理を作る人に悪い人はいないのかも。

 美味しいものを大切な人に作りたい。その気持ちがあればすれ違いや勘違いがあっても、なんとかなるんじゃないかな。

 口にしたピーチパフェは、なんだか幸せな味がした。



 ***



「改めて……私たち姉妹が暴走をして、この国に連れてきてしまってごめんなさいね」

「暴走……というと?」

「私たち、宵闇、夜明け前、真夜中の魔女は闇魔法や闇の精霊に影響を受けやすいのよ。そして邪竜なのだけれど、オウカ、クローディア、ギルフォードの三人が倒した結果、深い恨みを持ち、残留思念が闇の精霊を取り込んだため厄介な存在になってしまった。あのギルフォードが手をこまねく事態に陥り、私たち魔女にも悪影響を及ぼしたの」


 リーさんから話を聞いていた以上に、とんでもない状況になっていたわ。邪竜を両親が倒しただけでも驚くのに、その邪竜がパワーアップしてその三人の呪いをかけたというのだから、凄まじい執念だわ。


「オウカ様は邪竜の呪いとはまた別に、宵闇の魔女様にも呪われていた?」

「まあそうだな。邪竜の呪いに関しては耐性があったので動けた。ギルフォードも身代わりを立てて呪いを回避していたが、潮目が変わったのは君の出産、そしてクローディアの体が乗っ取られたことでこちら側が不利になった。特に自分は宵闇の魔女に強く呪われたので、コカトリスになってしまった」


 呪いを解く方法は、惚れた者の手料理だったとか。

 私はクローディアの娘であったので、惚れた者の血縁者──という部分が反応したのと、私の料理による能力なのだとか。説明されたけれど、魔法のことはやっぱりよく分からなかった。


「それで私を連れ去ったのは、邪竜の思惑なんですか?」

「いいえ。私たちが邪竜の影響を受けて、理性にブレーキが利かなくなってしまったのよ。あの王を貶めたい、その感情が先走って貴女と引き離して、他の男とくっつけたら傷つくだろうって」

「な、なるほど……」


 万が一そんな場面が訪れたらリア様はボロボロと泣き崩れて、その場に座り込んで丸くなってしまっているだろう。毛並みもボサボサになってやつれてしまうかも!?

 そう思うと自力で幻影魔法を打ち破って良かった!


「今もリア様を?」

「邪竜の影響も消えた今、これ以上なにかしようなんて思っていないわ。なによりあの王があんなに怒っているんだもの。妹たちもすぐにここに来るでしょうね」

「?」


 よく分からず小首傾げていると、言葉通り二人の魔女が現れた。二人とも疲弊しきって、漆黒の服装もズタボロだわ。

 一体に何が!?


「あら、思ったよりも早かったのね」

「宵闇、逃げましょう。あれは不味いわ」

「ええ、まさかあそこまでの力を隠していたなんて……、次に見つかったら殺されるでしょうね」


 あまりにも切羽詰まった姿に、地上で一体なにが起こっているのかしら?

 邪竜が暴走したとか?

 それとも隣国がそれぞれ軍を動かした?


「逃げる──無理だわ。だって……見つかってしまったもの」


 ゴッ!!

 私の想像はどれも外れだったらしく、頭上にあったはずの天井が一瞬で消えて目映い陽射しが差し込む。

 悠々と流れる雲、青空、太陽を背にした偉丈夫が浮遊し、その傍に漆黒の竜らしき存在が、灰になって消えるのが見えた。


「え」


 あまりにも神々しく、神話を彷彿させる光景に目を奪われた。

 長い角に、白銀と金の入り交じった長い髪、褐色の肌、白を基調とした神官に似た衣服がはためく。背に鳥と蝙蝠の羽根がある姿は神様かと思った。

 そこには感情が一切削ぎ落とされた偉丈夫が、魔女様たちを睨んでいた。


 あれはブチ切れた時のリア様だわ。いやブチ切れた時を知らないけれど、余裕のない怖い顔をしている!

 恐ろしいほど圧倒的な魔力を放出して、リア様は魔女様たちに手を翳す。

 瞬間的に、不味いと思った。


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