第33話 迷宮での出会い 

 

 ばさあああ、と焦げ茶の羽根を広げて、コカトリスも驚愕の声を上げた──が、背に乗った私を振り落とそうとか、攻撃するような反応は見せなかった。


「コケコケケケケ!」


 羽根を広げてバサバサと何かを訴えている。尾の蛇は「シュー」と舌を出しつつも、降参というか危害を加えないというポーズを取っていた。あと泣きそうに目を潤ませている。

 とっても既視感を覚えた。

 なんだかリア様と出会った頃のように、人懐っこい──というか人間っぽい?


「コケコケケケケ……」


 敵じゃないと一生懸命訴えているようだわ。もしかして……。


「魔女様の怒りを買って呪われてしまったの?」

「コケ! コケコケ!!」

「シュー!」


 もの凄い勢いで鶏の頭と蛇がブンブンと頷いた。まさかのビンゴ!

 よく見ると今まで見てきたコカトリスと違って、焦げ茶の羽根は艶々だし毛もモフモフしている。鶏の黄色い嘴、鶏冠は黄金色のように見えなくもない。胴体は少し薄緑で、尾の蛇はよく見たらエメラルドグリーンのようにキラキラしている。

 なんだか可愛い。あとで頭を撫でさせてもらえないだろうか。


「まあ。それなら何とかなるかもしれません」

「コケ!」

「シュウ!」

「私が料理を作ると呪いが解けるらしく、貴方と同じように魔女様に呪われた方を知っているのですよ」

「コケコッコ!」


 リア様、泣いていないかしら?

 私が居ないことに気付いて、悲しんでいたら大変だわ。特にモフモフの毛並みの砂海豹姿で泣いていたら、心臓が痛い。

 早く戻って甘い物、そうだわ。さっき食べ損ねたマカロンを作ってあげなきゃ!

 リア様の元に戻って、美味しいものを食べさせたい──だなんて、なんだか気が抜けた理由だけれど、私には大事な事だわ。


「コカトリスさんは、ここに住んでいるの?」


 私の問いに、コカトリスさんは首を横に振った。周りをよく見渡すと、地下通路が続いており、道が分かれているなど絵物語の迷宮のよう。幸いなことに天井は16フォートほどあって、中々に高い。王城の下にこんな場所、あったかしら?

 それとも王族専用の脱出通路?

 煉瓦の壁に鋭い蹴爪で文字を書き込んでいく。思ったよりも達筆だった。しかもお母様の手帳と同じ日ノ本言葉異世界言語だわ!


「ええっと、『王城の地下を邪竜が迷宮化ダンジョンにしてしまって、気に入らない人間や呪われた者はここに落とされる。邪竜はこの国を迷宮化ダンジョンして、自分の縄張りにするつもりのようだ。すでに王族は魔力を全て奪われ亡者アンデッドになって、この国に縛られている』……じゃあ、さっき私が会ったアドルフ様は……」


 それだけじゃない。王妃様や国王様、聖女エリー様もみんな邪竜に殺されてしまった?

 そういえば魔女様も、魂を繋げてうんちゃらって言っていたわ。

 思っていた以上に、国の状況は良くないみたい。でも私にできるのは、この迷宮ダンジョンを無事に脱出してリア様と合流することだわ。


 シシンたちを召喚したほうが早いかもしれないけれど、そうすると邪竜に気付かれるわよね。シシンたちを頼るのは最終手段にしましょう!

 私が思考している間に、ガリガリとコカトリスさんは文字を書き続ける。


『自分は宵の魔女の求婚を断ったため、この姿なんだ。元の姿になるのなら助かる。魔法と戦闘に関しては任せて欲しい。ただ料理などは呪いによって、できないみたい』


 魔女様への求愛を断った。

 眉を顰めるワードが出てきたので、一つ確認をしておこう。


「つかぬことを伺いますが、魔女様の求婚をどのように断ったのですか?」

「コケ?」

「私の呪われた方は、魔女様たちにプロポーズをして呪われたので……」

「コケケ……」


 ガリガリと文字を書き足した。そこには『自分には好いた人がいる。料理を褒めてくれたことは嬉しいが、君との結婚はできない。申し訳ない』と──まともだった。


「まともです……」

「コケケ!」


 当然だということを言っているのだろう。リア様とはまた違ったケースなのかもしれないわ。さっきアドルフ様にプロポーズをされた時に断ったら憤慨していた魔女様がいたけれど、もしかしたらその方が宵闇の魔女様?

 勇気を出して告白したのに、振られたらやっぱり悲しい。

 私だってリア様に同じことされたら──泣くわ。でも好きじゃない人に同じようなことをされたら、困ってしまうのも、わかる。


 お互いに好きになるって状況は本当に奇跡のようで、難しい。

 改めてそう思うと、リア様に会いたい気持ちが膨らんでいく。リア様に会いたい。ギュッと抱きしめて、安心したいわ。

 そのためにも迷宮ダンジョンを抜けたいと!


 そう思って前に進もうとした矢先、ズシン、ズシンと牛頭人身の怪物が巨大な斧を持って現れる。

 あ。私、無事にリア様の元に帰れるかしら?


 ──ゴガアアアアアアアアアアアア!


「きゃあああああ!」

「コケ!!」

「シャ!」


 叫ぶ私に、コカトリスさんは目を輝かせて跳躍。蹴爪でミノタウルスの斧を弾き、もう片方の蹴爪で顔を蹴り飛ばす。体勢を崩すミノタウルスに蛇が毒を浴びせて、一瞬で頭が溶けかけたところでコカトリスの鋭い爪が首を切断。

 あっという間に、ミノタウルスの頭部と体が床に倒れた。


「ひゃっ……思った以上にコカトリスさんが強くて助かりました」

「コケコケ!」


 二足歩行で歩いていたけれど、四足獣に近く食用獣の牛とあまり変わらない。色と凶暴さぐらいだろうか。とりあえずこれで食材ゲットである。

 ミノタウルスはとても高価なので、まさかここで食材が手に入るとは思っていなかったわ。

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