第27話 呪い持ちには天気太刀魚のリゾットも一緒に
ちなみにリア様に味見してもらったら、ソテーの美味しさに感動したらしく、私の背中に引っ付いて「きゅうきゅう」と囁いている。なんとも甘い声音だわ。
人の姿だったら即ノックアウトするわね私。
同じく味見をしに来たシシンが『古き友がついに壊れた』とか『四六時中愛を囁いているけれど、黙らせようか?』と心配そうに声をかけてくれた。
「そ、そうなの? でも好いてくれるのなら嬉しいわ」
『相思相愛なら微笑ましいけれど、人型になった時は気をつけるんだよ』
「う、うん」
シシンは味見を堪能した後、リーさんたちと話があるとかでいなくなってしまった。ムニエルを皿に移した後、一度、フライパンに洗浄魔法をかけて貰ってから、春桜マッシュルーム、春明のホンシメジと祝福のタマネギをみじん切りにしたものを投下する。オリーブオイルとニンニクで炒めつつ、砂食い鯨のベーコン、
「本当にリア様はすごいです。料理が凄く短縮して、早く美味しいものができますわ」
「きゅ」
リア様は料理中だと分かっていたのか、ぐりぐりと私の肩に顔を埋めてキスの催促はなかった。でも嬉しい気持ちは後脚のバタバタ具合ですぐにわかる。
リア様が可愛い。
あとは最後にチーズを加え、お皿に盛り付けつつ、ムニエルと茹でておいたブロッコリーも添えて完成!
スープはサッパリした卵とほうれん草の
その様子にリーさんとロウィンさんは「相変わらずとんでもない光景ですね」とか「夢物語の一節のようだ」と大袈裟な反応だった。一応お客様なので、手伝うと言い出した二人には座って貰った。
それでは実食。
「んっ! リゾットが濃厚でおいしいですね」
『このムニエルもすっごく美味しいわ!』
『チーズ最高!』
ディーネは人の姿のまま食事をとっている。今日はこのスタンスでいくのかしら。別に良いけれど、人の姿だとさらに美人さんって感じ。なんというか大人な──ハッ!
私の隣の席に座るリア様に視線を移す。魔法でスプーンを自由自在に動かし、ムニエルを食べる時はナイフとフォークを使っていたが完璧だった。
「きゅいい! きゅきゅきゅいいい。きゅきゅう!」
『ムニエルとバターの味わい、ふっくらとした食感……言語化に失敗しました』
ちょっと噎せそうになった。
途中で翻訳が追いつかなかったのか、翻訳を放棄したのか。とにもかくにも他の女性(?)には目もくれない。これも呪いの影響なのかしら?
呪いに影響だったらと落ち込みかけて──頭を振る。
沈んだ気持ちを払拭するためにも、リゾットを口に運ぶ。
「んっ、ミルクとチーズの味わいをお米がたっぷり吸っていて、美味しい。キノコとベーコンの食感もいいわね」
「きゅいきゅう!」
『粉チーズをさらにかけても美味です』
「まあ。リア様はチーズが好きなのですね」
「きゅ!」
リア様は綺麗に切り分けたムニエルをフォークごと私に向けた。あ、これは食べさせたいってことね。食べ物を分け与えることで魔力術式的な繋がりを深めたいのだろう。
リア様の呪いを上書きするためにも必要な行為なのだと、リア様は言語化を何度も失敗させながらも私に話してくれた。
リア様も私と一緒に居たいと思ってくれているってことだもの、みんなに見られるのはちょっと恥ずかしいけれど、これもリア様のため!
パクッとリア様からのムニエルを食べた。表面はかりっとこんがりだけれど、ふっくらとした食感がたまらない。バターを使って正解だったわ。
「ん、美味しい。じゃあ、リア様に私の分を」
「きゅい!」
ガタンと、拳をテーブルに叩きつけたのは、ロウィンさんだった。
顔も突っ伏していて、微かに震えているのが見える。
「もしかして呪いの浸食で痛みが?」
「あー、違うと思います。義兄さん……」
「わ、わかっている。……空気を悪くして……大変申し訳ない」
震えた声で謝罪するロウィンさんは、そのまま無言で食事を続けた。黙々と口の中にかき込む感じではなく、一口一口味わっている。
美味しくなかったわけでも、呪いに反応したわけでもなくて安心した。でもなんで大きな音を立てたのかしら?
シシンに視線を向けても頭を振るので、何も知らないようだ。リーさんを見るも、笑顔が返ってくるだけだった。
「個人的なことですので、ユティア様はお気になさらずに」
「はあ……」
そういえばリーさんは、有名な商業ギルドの会長なのは聞いたけれど、出身や経歴は不明だったわね。交渉時にトワイランド王国側で身元確認や経歴に目を通した時に『東の国出身で帝国に拠点を置いていて、各国に支店を増やしている』ことぐらいしか分からなかった。扱う商品はどれも品質がよかったし、スケジュール納品、契約書にも不審な点はない。
思えば謎の多い人だわ。外見も胡散臭いし。でも商談をするなら商人の中では信用できるほうだわ。
そんなことを考えつつ、リゾットと
「うん。夜はフライにしよう」などと、この時の私は暢気に考えていた。
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