第26話 呪い持ちには天気太刀魚のムニエルを
テントから出ると真っ青な青空と、緩やかな白亜の砂漠がどこまでも広がっている。そんな何もないど真ん中に、テントやら田畑、オアシス、世界樹……その傍に、砂食い鯨の骨を使った家が建ちつつある。
うん、自分でも規格外というか想定外の居場所だが、これはこれで愛着が湧きつつあった。背中で「きゅい、きゅい」と囁くリア様が可愛い。これは私の名前を呼んでいる感じね。
「私もリア様が大好きですよ」
「きゅ! きゅう~~~」
『言語化に失敗しました』
うん、翻訳がまったく読み取ってないけれど、雰囲気で何を言っているのかが分かってきたのは……喜ぶべきことかしら?
このまま、お母様の手帳を調べるべきか。
それともリア様のブラッシングをして、癒されるべきか。
そう考えていたが、まず先にしなければならないのは、お昼ご飯だ。色々話し合いが長引いて、十一時になろうとしていた。
ロウィンさんの呪いを解くためにも、美味しくて栄養価の高そうな食材。……うーん、コカトリスのお肉は殆ど使っちゃったし、砂食い鯨の燻製やベーコンはあるけれど、新鮮さが欲しいところ。
とはいえ、ここは砂漠のど真ん中。
コカトリスや砂食い鯨などの魔物が良く通る場所だけれど、タイミング良く食材が……。
ふと先ほどまで雲一つなかったのに、雲のような影があるような?
近づいてきている?
あ、もしかしてこれは──。
「きゅ!」
『
「まあ、リア様は目が良い上に、物知りなのですね!」
「きゅっ」
照れて後脚がパタパタと揺れているのが、可愛らしい。そしてなんてタイミングの良い!
海にいる太刀魚と違うのは、気候や捕獲状態によって味が大きく変わる魔物種の魚だ。常に群れで行動しており、その移動はまるで大きな雨雲のようだと記述にはあったわ。鱗が白銀で、口がかなり鋭利なんだとか。その上、素早いし、気性が荒い危険種でもある。
でも私には──。
『ググッ。狩りの時間?』
「コーム! ふふっ、来てくれたのね」
『狩るものがあるなら、いつだってくる』
「それじゃあ、あの
『グッ。問題ない』
コームは三等頭の姿のまま鎌だけ大きくなり、空を蹴って矢のように飛んでいった。速い。そして強いわ。
竜になったら、更に美味しくなるのかしら?
ちなみに
高級食材なのは流星果実と同じく、入手が困難だからなのと、調理方法が特殊なのだ。
「ソウ、あの魔物種の毒袋除去と味を美味しくするためにある下拵えが必要だから、持ち帰るのはそれが終わってからになるけれど、大丈夫?」
『問題ない!』
「そう、じゃあ、よろしくね」
『りょ!』
私はノームに手伝って貰って、できるだけ大きな樽を二つほど用意して貰う。それから米で作った醸造酒の瓶を、魔導具のウォークインクローゼットから大量に持ち出す。以前、調理用で大量に買い込んでいたものだ。残っていて良かったわ。
「きゅ?」
『ワインとは香りが違います』
「ええ。東の国で取れるお米という麦と似た穀物で、酵母菌に発酵させることで作られるの。料理の下味によく使っているのよ」
「きゅきゅ」
『これをどのように、使用するのですか?』
「ふふっ。この
リア様は宝石と聞いて目を輝かせて「きゅいきゅい」とはしゃいだ。翻訳すると『ユティアに指輪を贈ったら貰ってくれる?』となんとも情熱的な言葉だった。
そう言ってくださるリア様の言葉に、ジンワリと胸が温かくなる。
魔女様たちは全て呪いによる好意だと断言していたけれど、それだけじゃないと思っている。ううん、私はそう思いたいのだ。
だからできるだけ、自分の気持ちを伝えよう。
「指輪ですか? ふふっ喜んで!」
「きゅきゅうううううい!」
『言語化に失敗しました』
「リア様、私はリア様と出会えて幸せですわ」
「きゅ!」
ふにゃふにゃになるリア様が、やっぱり可愛い。もっとも夜になったら私がリア様の姿を直視できず、ふにゃふにゃになるのだけれど。
ちゃぷん。
ソウたちが樽の中に
活きが良いわね。
白銀だった鱗がより煌めき、太陽の陽射しに反射する。このように輝くことで、全身に酒が回って酔っ払ったという合図になる。吐き出した黒独珠が魚の数だけあるか確認した後、ディーネの協力のもと凍らせて鮮度を維持。
この段階でソウたちはもう一つの樽を担いで、自分の集落に戻っていった。きっと向こうでは塩焼きにするのだろう。生も美味しいけれど、ソウたちでも簡単に作れる方法と、塩を渡しておいたので大丈夫なはず。
お昼はフライ、天ぷら……煮物は間に合わない。……あ、リゾット!
作るものを決めたらまずは下処理として頭をおとして、内臓と血を洗い流して三枚におろす。下処理のあと軽く塩をふって水分を抜くと、けっこう持つのよね。
ついでにムニエルも作っちゃいましょう。三枚に下ろしたあと細かく刻んだハーブ調味料、塩、胡椒、その後に片栗粉をまぶしておく。それからフライパンにオリーブオイルとバターを投入して、この時はリア様に低温にしてもらう。
「リア様の火の調節って、本当に絶妙ですわ」
「きゅう、きゅうう」
『ゆてぃあ、褒めるのならキスがほしいです』
「まあ。おねだりが上手になりましたね。でも料理中は危ないのでダメです」
「きゅ……」
「終わったら良いですよ」
「きゅ!」
三枚に下ろした
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