第50話 唯一になるために

「中間テストの出来栄えはどうだった?」


 テスト終わりの放課後、柚衣の家にて隣に座っている琴美にそんなことを聞く。

 

 ゴールデンウィークが終わってからは柚衣は勉強漬けの日々だった。

 テストの二週間前からは琴美と勉強会などはしたがお互いの勉強もあり、遊ぶことはなかった。

 とはいえ琴美とは学校ではよく話していたし、ほぼ毎日一緒に帰っていた。

 去年のように切羽詰まらせてはいないし、精神的にも楽に勉強できたと思っている。


「そこそこと言ったところでしょうか。自己採点では一応、満点の科目もあったので一位の自信はあります......柚衣くんの方はどうでしたか?」

「俺はコツコツ勉強してきた成果が出たのか自己採点では合ってたところが多かった。総合でトップ十位入っているかは分からないけど去年よりは点数上がってると思う」


 琴美の方の順位は大体予想できる。

 おそらく今回も総合一位を取っているだろう。

 勉強をすることが日常で当たり前のように琴美は高校一年生の頃から毎日勉強を積み重ねている。

 

 柚衣の方は自己採点ではかなり良く、総合でトップ十位は取れているだろうと予想している。

 今まで他より苦手としていた数学も思っていた以上に解けていた。

 しかし、それでも去年のことを考えるとまだわからない。

 それに柚衣は少し遅めに勉強を習慣化したため、不安な部分は多くある。


「頑張りの成果が出たんですね、偉いです......という訳で膝枕でもしてあげましょうか?」

「大丈夫です」

「......何でですか」


 提案を拒否すると琴美はムッと口を尖らせる。

 

 前回の膝枕は流れに乗せられて自分の中の欲に忠実に従ってしまった。

 しかし冷静に考えるとアウトであり、これ以上甘やかされる訳にはいかない。


「あまり良くないっていうか......安易に異性にそういうのはやらない方がいいと思う」


 柚衣は自制が強いタイプなので心配はいらないが感情や自身の欲に身を任せてしまう人もいる。

 ただでさえ学校でも天使様と呼ばれるほどなのだから気をつけてほしいと柚衣は思う。


「柚衣くん以外にやらないですし、私そんなに軽くないです。なので大人しく膝枕されてください」

「俺が困るからやめとく」


 前回とは比べものにならないほど恋心は大きくなっている。

 クラスも一緒になり、琴美と一緒にいることが多くなったからだろう。

 だから膝枕された時に柚衣の心臓が持たないような気がするのだ。

 琴美には良くない行為だからと言ったものの、それが第一の理由だ。


「それなら......」


 柚衣は琴美に隙を突かれて、柚衣の太ももの上に頭を置かれてしまう。

 突然のことだったので柚衣は困惑する。


「......琴美さん?」

「そ、そのまま頭......撫でてください」


 これならば琴美の膝枕を拒否した意味がない。

 しかし、ここで拒否することなど到底できず、柚衣は言われるがままにこと琴美の頭をゆっくり撫でる。

 

「こ、こうか?」

「......はい」

 

 琴美の横顔は綺麗で、いつも見ているのに何故か柚衣の胸の鼓動は加速していく。

 髪を撫でるたびに甘い香りが鼻腔を掠める。

 話題を何か振って話さないと柚衣の心臓が押しつぶされそうだったので柚衣は何か話そうとする。


「急にどうしたんだ?」

「......柚衣くんに触れられたくなりました」

「な、何で?」

「さあ、何ででしょう」


 こちらの気も知らない琴美は悪戯っぽく笑うので柚衣は琴美の頬を軽く摘む。

 そしてそのまま引っ張る。


「あの......少し痛いです」

「お仕置き」

「な、何でですか?」

「さあ、何ででしょう」

「......そっくりそのまま返さないでください」


 琴美との何気ない会話が柚衣にとっては特別で、一番幸せな時間だ。

 そして恋心が募れば募るほどもっと一緒にいたいと感じるようになる。

 

 (琴美の彼氏になれたら......最近、こんなことばっか考えてるな)


 ただ、もう少しだけ柚衣は時間が欲しい。

 成功するかわからない告白をする自信がないのだ。

 

 スポーツが特段できる訳でもなければ勉強も突出している訳ではない。

 どちらかというと最近まで怠けていた人であり、過去を言い訳に逃げてきたので交流関係も浅い。

 遼のように人気者でもないのだ。

 故に琴美が柚衣を好きになる要素がないと思っている。

 

 それでも一歩踏み出したいし、失敗するとしても思いは伝えたい。

 

 だからあともう少しだけ自分を磨いて、自信をつけた上でキッパリと自分の気持ちを伝えたい。


「どうかしましたか? 柚衣くん」

「いや、何でもない、考え事」

「珍しいですね、何かあったんですか?」

「何もないよ」

「そういう時は大体ネガティブなことを考えている気がするので聞かせてください」

「別に大丈夫だ」

「......本当ですか?」


 琴美から訝しげな目で見られるものの、柚衣は笑って誤魔化す。

 

 もし柚衣が告白して失敗すれば今の関係はどうなってしまうのだろうか。

 崩れてしまっても思いを伝えるべきなのか、このまま思いを留めたほうがいいのか。

 

 それでも柚衣は琴美にとっての唯一として琴美の隣に立ちたい。


 エゴでわがままな気持ちだと重々承知しているが抑えることは到底できそうにない。

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