第45話 それぞれの心境の変化
新学年が始まって数日が経った。
もうすでにクラス内ではグループのようなものが出来ており、柚衣は主に遼や遠藤と一緒にいる。
そして遼や遠藤以外とも友達とは言えないが数人のクラスメイトとはある程度話すようになっていた。
心を開いてみれば楽しい生活が待っており、なぜ人との関わりに恐怖していたのか不思議に思うほどだ。
「天使様ってちょっと変わったよな」
一方、琴美の方とは同じクラスになったからと言って実はそこまで話せていない。
話しかけづらい状況になっているのだ。
今までの琴美は天使様モードで女子ですら話しかけづらい雰囲気を纏っていた。
しかし最近の琴美は天使様の雰囲気はあるものの、以前よりは明らかに心開いているように見える。
よって少々、女子の間で人気になっているのだ。
度々、琴美は囲まれているのでその結果、柚衣が今度は話しかけづらくなっている。
柚衣だけが知っていた琴美の素が学校でも稀に垣間見える時があるので少し複雑な気持ちだ。
もちろん、琴美も完全に天使様モードよりかは楽だろうし、楽しそうに話しているので安心はする。
ただそれでも胸が痛くなってしまうのは独占欲や嫉妬心からくるものだろう。
恋をしていて多くの人が回避することのできない感情なので受け入れるしかない。
「遼も大概だぞ、なんかあったのか?」
「ん......ちょっとな。前向こうかなって思ったんだよ」
変化があったのは琴美だけではなく遼の方もだ。
今まで女子と接するのに恐怖していた部分があったが今はそれがあまり見えない。
むしろ遼自ら話しかけにいっている時もある。
「好きな子でもできたのか?」
「ホワイトデーの日に仲の良い人にチョコのお返ししたんだけどさ、その時ある人に頑張って、って言われてなんか嬉しかった」
「頑張って?」
「そう、何を意図していたか知らないけど何だか嬉しくて......俺に近づくために手段問わずに迷惑かけてきた人とかいたけど女子全員そうって訳じゃない。それに距離保って友達として接してくれる人もいるのに実は怖かったなんて聞かされたらショックだろ? 俺としても恐怖とかなしにただただ仲良くしたい。やっぱりまだ怖いけどちょっとずつ克服していこうかなって」
「なるほどな」
そう言って笑う遼はいつもより輝いている。
前を向こうと頑張っている遼の姿は柚衣の目にもかっこよく映るのだ。
克服すれば今までより余計にモテそうな気もするが今の遼の調子なら大丈夫だろう。
「柚衣も柚衣で変わったよな。まさか好きな人できるなんてな」
「......好きな人?」
遼はニヤニヤとしながらこちらを見ている。
その様子に少し背筋が凍ってしまった。
遠藤にも言ってしまっているし、柚衣としては遼に言ってしまってもいい。
しかし琴美と同じクラスであることを考えると、意図せず遼が口を滑らして琴美にバレる可能性がある。
遠藤は口が硬いので二人きりで話す時以外そんな話題は持ちかけないが遼は別だ。
事実、こうして恋バナをしようとしている。
自分の好意を知ってほしいと思う反面、ストレートに知られるのは困る。
今も琴美が目に見える範囲にいるし、この会話が聞こえているかもしれない。
ちょっとずつアピールしていくつもりなので言う訳にはいかない。
「いないし、恋愛はもう良い」
「とぼけなくてもいいぞ、前から薄々気づいてたし」
「だから、いないって言ってるだろ」
柚衣は少しだけ強めの口調で遼にいないと言い返す。
しかしそれでも遼のニヤニヤが止まっていないのでもうどうにもできない。
故に柚衣も諦めることにする。
「本当は?」
「......ご想像にお任せする」
柚衣は遼の追跡から逃れるために自分の席へと戻った。
***
「琴美、今日一緒に帰らない?」
放課後、柚衣は琴美に一緒に帰ろうと提案をする。
始業式の日は柚衣の家に琴美が来たがそれ以降は遊んでいない。
それにあまり話せていないので特に理由はないが一緒に帰りたいという柚衣のわがままだ。
「えっと......ごめんなさい、先客がいるので」
しかし柚衣はキッパリと断られてしまう。
胸がズキリと痛むがそんな時もあるかと切り替えるしかない。
「琴美ちゃん! やっと学校終わったし、カフェ行こ」
「あ、はい、そうですね」
先客とはどうやらクラスメイトの
セミロングくらいの髪の長さをしていて、背は琴美より少し小さいくらいだ。
特に琴美に話しかけている人物でクラスメイトということもあり、何となく認知している。
遼ともたしか仲が良かったはずだ。
柚衣は直接関わったことがないがかなりフレンドリーな人物であることはわかる。
誰に対しても明るく笑顔で接しているイメージだ。
学校が始まって数日だがすでにクラスの女子の中心的立ち位置にいる。
そんな皆川から殺気に近い強い圧を感じるのは気のせいだろうか。
害虫を見るような目でこちらを見ているような気もする。
「すみません、また今度に」
「そっか、じゃあばいばい」
柚衣は琴美に別れを告げて一人で帰路についた。
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