第44話 新学期とクラス分け

「おはよう、遠藤」


 柚衣は昇降口前に貼られた紙の前に立っている遠藤に挨拶をする。


 春休みが終わり、新学年が始まった。

 ついに高校二年生か、とは思うもののそこまで実感がある訳ではない。

 ただ進級したことは事実なので意識をこれから変えていく必要が出てくるだろう。

 とはいえ何かをする気はないのでいつも通りにやっていくつもりだ。


「あ、おはよう、花沢くん。同じクラスだったから今年からクラスメイトとしてよろしくね」

「ん、本当か?」


 どうやら遠藤と同じクラスになったらしい。

 友達の少ない柚衣にとって仲の良い人が一人でも良いと安心するものがある。

 できれば琴美と一緒のクラスになりたいなと思うものの、そんな偶然は大抵起こらない。

 と言ってもクラスが違うだけで琴美との距離に変化があるという訳ではない。

 過度な期待はせずに遠藤が指差すB組の名簿を見る。


「あ、本当だな、同じクラスだ。こちらこそよろしく......また色々お世話になるかも」

「全然いいよ、花沢くんの恋は応援したいし。これからは相談の量が増えそうだけどね」


 B組の名簿には遠藤が言った通り、遠藤の名前と柚衣の名前が書かれていた。

 柚衣も同じくよろしくと言うと遠藤から少し含みのある言葉が返ってくる。


 疑問に思ったものの、それより気になることがあったため、上から書かれた名前を見ていく。

 すると、すぐに琴美の名前が柚衣の目に映った。

 途端に胸が大きく跳ね上がる。


「......たしかに。あと遼も一緒か」

「そうみたいだね。仲の良いメンバーが多くて嬉しいよ」


 名簿には遼の名前も書かれており、二年連続で同じクラスだ。

 中学の頃も合わせれば三年連続になる。

 何気に遼とは同じクラスであることが多いので一種の運命のようなものだろう。

 連続だからと言って嬉しくない訳もない。

 同じクラスの分、接する機会もできるので素直に嬉しい。


 しかし嫌な予感を感じ取ってしまったのは異名持ちの男女が揃ってしまったからだろう。

 王子様こと大園 遼と、天使様こと天瀬 琴美。

 琴美は女子生徒三人によるいじめ未遂だったりがあるので心配するものがある。

 それに遼も女性関連のトラブルが増えそうな気がする。


 (......流石に考えすぎか)


 少し懸念はあるものの、純粋に親しい人と同じクラスになれたことを喜ぼうと思う。


「っしゃー。俺、天使様と同じクラス!」

「うわ、今年の運使い切ったんじゃね?」

「それは困るな、今年から本気で攻めてみようって思ってるから」

「え、そんなに好き?」

「好きって訳じゃないけど......顔いいし、お淑やかだし、彼女にしたいなって」


 そんな発言が柚衣の耳に入ってくる。

 怒りと似ているようで異なる何とも言えない感情が柚衣の心に押し寄せた。

 やはり天使様はモテるなと再認識させられる。


「けど、王子様もいるぞ?」

「......本当じゃん、何でだよ、流石に王子様いたら無理だわ」

「お疲れ、せいぜい頑張ってくれよ」

「いや、でもワンチャン......」


 近くにいた男子生徒二人はそんな会話をしながら校舎内へ入っていく。

 遠藤も聞いていたのか苦笑いをする。


 友達として琴美と距離が一番近いのは間違いなく柚衣だろう。

 しかし恋愛感情を抱いてもらえるかと言ったら自信はない。

 

 それでも焦って琴美を傷つけたりするのは一番あってはならない。

 事実、努力が空回りして一番大切なものを見失っていた時があった。

 自分の気持ちを先行させるのはあまりにも自分勝手。


「花沢くんって慎重な性格しているよね」

「そうか? 結構大雑把だと思うんだが」

「だってよく二人きりで遊んだり、たまに......いや、慎重というか奥手というか......何でも無い、ごめん忘れて」


 柚衣と遠藤も話しながら新しい教室へと向かう。

 そして廊下を歩き、教室へ入ると柚衣の視界に座って一人本を読んでいる琴美の姿が映る。

 新鮮だと感じるのは同じクラスではなかったため、普段の天使様をあまり見ることがなかったからだろう。

 しかし雰囲気が天使様というより普段、柚衣が接している琴美に近く感じるのは気のせいなのだろうか。


 こちらの視線に気がついたのか、ふと目が合う。

 そしていつもの笑みでニッコリと微笑まれてしまったので思わず目を逸らした。

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