第42話 二回目の訪問

「本日のニュースをお送りいたします......」


 午前、柚衣は高校から出た課題の休憩がてらテレビをつける。

 

 学年末テストが終わったあとは時間の流れが早くあっという間に春休みに入った。

 やっと休めると思っていたのだがかと言って特に春休みにやることもないので暇だ。

 その分、勉強と運動はそれほど背負わずに気楽にできるのだがもっと春休みを満喫したいところ。

 

 (そういえば母さんと父さん、春休みに一回顔見せに来るって言ってたけどいつ来るんだろ)


 ニュースを流しながらそんなことを考える。

 

 夏休みに実家に帰ったとはいえ、冬休みも帰っておけばよかったと今更ながら柚衣は後悔した。

 親としては心配なのだろう。

 一人で寂しくないか、困ったことはないか、等のメールが頻繁に来る。

 大丈夫といつも返していたのだが、親には柚衣の過去のことを言っていない。

 だから急に一人を好むようになり、マイナス思考になって性格も変わった柚衣をずっと気にかけていただろう。


 今は琴美とよく遊んだりしているので寂しくなどないし、過去からも立ち直ることができた。

 当然、前のように振る舞うことはできないので友達は未だ少ないが今の友達は良い人たちばかり。

 そんな人たちと仲良くできるだけで柚衣にとっては十分すぎる。


 近況報告がてらこちらから会いに行くのも良いかもしれない。


「あ、もうこんな時間か、昼飯でも作るか」


 考え事をしながらニュースを見ているといつの間にか正午を回っていることに気づいた。

 そして昼飯を作ろうと考える。

 と言ってもお湯を入れて待つだけで作れるカップ麺だ。

 カップ麺に沸騰させたお湯を入れて、蓋に箸を置く。

 

 (ご飯食べたら昼からまた勉強して......走って......って暇だな)


 昼から春休みの暇つぶしがてら誰か友達と遊びたいところ。

 柚衣はそう思いジッとスマホを見つめる。

 

 春休みに入ってからまだ琴美とは遊んでいない。

 いつもなら柚衣の家に行ってもいいかとメールで聞かれて、柚衣は承諾している。

 しかし琴美とそんな会話はしていない。


 おそらく始まったばかりなので課題に勤しんでいるのだろう。

 そんな中で遊びに誘うのは気が引ける。

 

 しかし柚衣は遠藤に二回目の恋愛相談を持ちかけた際にアドバイスされたことを思い出す。


「受け身で考えるんじゃなくて攻めてみる......か」


 優しさや気遣いができるというだけで好かれる訳ではない、場合によっては欲張ることも大切だ。

 といったようなことを遠藤は言っていた。


 以前は抵抗があったかもしれないが今は誘うこと自体に関して抵抗がない。

 

 (......誘うだけならいいか、課題で忙しくて断られてもそれで終わりの話だし)


『今日暇? 暇だったら午後から遊ばないか?』


 少し送る文に考えた末、ラフな文で良いかといつも通りにメッセージを送る。

 すると数分が経ち、メッセージが返ってきた。


『良いですよ、ちょうど私も柚衣くんと遊びたかったところです。どこで遊びますか?』

『どこでもいいけど......どこか行きたいところとかある?』


 まずは琴美の意見から聞くつもりだ。

 そして遊ぶスポットとなればある程度知っているので琴美がどこでも良いならいくつか提案するつもりだ。


『特にないですが......では、もしよろしければ私の家に来ませんか? 家族はいますけどそれでも良いなら』

『なら行かせてもらおうかな。十四時くらいに行ってもいい?』

『どうぞ、お待ちしてますね』


 以前は遊びではなく勉強会に近しいものだった。

 だから実質琴美の家で遊ぶのは初めてだ。

 

「ささっと今やってる課題だけでも終わらせるか......って、あ、カップ麺の存在忘れてた」


 カップ麺の蓋をとれば麺は汁を吸ってすでに伸び切っていた。


 ***


「あら、いらっしゃい......貴方が柚衣くん?」


 十四時ぴったり、柚衣は琴美の家にたどり着く。

 そして琴美の家のインターホンを鳴らせば扉から出てきたのは琴美に似た容姿をする綺麗な女性だった。

 おそらく母親だろう。


「そうです、初めまして。花沢 柚衣と申します」

「琴美の友達というので会いたかったです。そんなに硬くなくて良いですよ。琴美の母親の天瀬 由依あませ ゆいです。いつも琴美がお世話になってます......琴美が迷惑とかけてない?」

「いえ、そんなことはないです。むしろ私がいつも助けられています」

「そう、良かったです、琴美の友達になってくれてありがとうね。これからも仲良くしてやってください。琴美はまだ多分部屋で勉強しているわ......あ、どうぞ、上がって」

「お邪魔します」


 琴美の敬語は母親譲りな部分があるのだろうか。

 誰に対してもそうなので口癖のようなものになっているのだろう。

 

 柚衣は手に持っていた菓子折りを琴美の母に渡して階段を登ろうとする。

 しかし少し登ったところで上から降ろうとしてきた男性と目が合った。

 琴美の父親だろう、雰囲気が似ている。ただ、ガタイがかなり良く柚衣よりも大きい。

 そんな人物に睨まれてしまい、柚衣は言葉も発することを忘れてただ立ってしまう。


 柚衣としてはもちろん何もする気は無いがおそらく警戒されているのだろう。

 母親は快く受け入れてくれたが琴美とは異性の友達、それもそのはずだ。


 とはいえこちらは上がらせてもらう側、我に返った柚衣は挨拶をした。


「どうも、琴美の......彼氏かい?」

「い、いえ、友達です」

「そうか、琴美に友達が......琴美は部屋にいるから、仲良くしてやってくれ」


 何か言われると少し身構えたが肩を軽く二回叩かれてそのまま琴美の父親であろう人物は階段を降った。

  

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る