第40話 友人と恋バナ

「奢りなので好きなもの食べてください」


 放課後、ファミレスにて柚衣は遠藤にメニュー表を差し出す。

 柚衣は遠藤に相談があったので放課後に時間をくれないかと頼んだのだ。

 部活もなかったようなので遠藤は二つ返事で受け入れてくれた。


「なんかごめんね、ありがとう」

「いやいや、時間もらってるしこっちがお礼を言いたい」

「じゃあ、遠慮なく頼まさせてもらおうかな」


 遠藤はそう言って店員を呼び、いくつか品を頼んだ。

 そこまでお腹が減っている訳では無いのだが柚衣も何品か頼んでおいた。


「それで相談って何かな?」

「誰にも言わないで欲しいんだが......」

「もちろん、それは大丈夫だよ。誰にも言うつもりはない」


 遠藤だからこそできる相談だ。

 相談ごとなので誰かに聞いて欲しいというよりは今回は明確なアドバイスが欲しい。


「俺、琴美のこと好きみたいでさ......でも今のままじゃ無理だしどうすればいいかなって。彼女持ちの遠藤にアドバイスが欲しいっていうか」

「なるほど、恋のお悩みという訳だね」


 柚衣が悩んでいるのは自分の恋心について。

 今のままであれば琴美とは友達止まりな気がしてしまうのだ。

 何か起きない限りこれ以上距離が遠くなることもなく、かと言って近くなることもない。

 だから琴美との時間を第一にしながらもう少し距離を縮めたいと考えている。

 そこで恋愛経験のある遠藤に相談という訳だ。


「やっぱり花沢くんは天瀬さんのこと好きだったんだ。ちなみにいつぐらいから?」

「新年明けてぐらいからだな」

「なるほど、好きになったきっかけは?」

「......気づいたら側にいて支えてくれるし、暖かいし、大人びてるように思えるけど年相応なところあって可愛いし。そんな琴美の側にずっといられたらなって」

「聞いてるこっちが顔赤くなるよ。花沢くんは天瀬さんのことちゃんと見てるんだね」


 柚衣は琴美とそれなりの時間一緒に過ごしてきて、琴美という存在自体を見続けてきた。

 その上で柚衣は琴美のことが好きになった。


「今は多分二人は友達でしょ? そこから距離を縮めたいってことだよね」

「そういうことだ......ちなみに遠藤は付き合う前どういうアクションを起こしてたんだ?」

「別に特に何もしてないよ。元々先輩が押し気味だったっていうのもあって何もできなかったっていう方が正しいか」


 遠藤の彼女である白川に会った際にかなりフレンドリーで明るい性格をしていたことが印象に残っている。

 だから遠藤が押されている場面も容易に想像することができた。


「自然な流れでお互い好きだったことに気づいて付き合ったみたいな感じだからね。もちろん円滑に付き合うことができたかと言ったらそうではないけど時間経過だね。だからアドバイスできることって言ったら特にないんだよね」

「それなら、正直俺と琴美って釣り合うと思うか?」


 それを聞くと遠藤は届いたコーヒーを一口啜り、ゆっくりと喋り始めた。


「釣り合う釣り合わないでいうと釣り合わないだろうね」

「やっぱり......」

「でもその考えでいくと誰も釣り合う人なんていなくなるよ、だって天使様は雲の上の存在のようにされてるから。そもそも釣り合うかどうかって他者からの意見であって恋愛においては関係ないこと。好きだったら好きで天瀬さんに振り向いて貰おうと頑張るだけで良いんだよ。誰から見てもお似合いな人物がその人にとっての特別になるとも限らない。でも逆に誰からみても不釣り合いな人物がその人にとっての特別になることもあるからね」


 柚衣は遠藤の言葉に深く胸を打たれる。

 今まで本当の意味で琴美にとっての唯一、特別になろうとしていなかった。

 他者からの評価も気にして自分らしくない状態でいようとした。


「たしかに周りから見て不釣り合いだったら嫉妬で両者に危害が加わるかもしれない。人間の恋の感情って良くも悪くも恐ろしいからね。でもさ、そんなことがあってもお互い好きで居続けて関係を維持するどころか深められたら周りも徐々にお似合いだと言わざるを得なくなる。要するに自分の気持ちを貫き通せるかどうか」


 ずっと想い続けていてもその恋が実るかどうかはわからない。

 しかし自分の気持ちをまっすぐ相手にぶつけようとすることは大切なのだ。

 そんな大切なことを柚衣は見失いかけていた。

 釣り合うかどうかは所詮他者からの評価。

 そんな評価が欲しい訳ではなく琴美と両思いになりたい。


「......ありがとう、大切なことを見失いかけてた気がする」

「ううん、全然良いよ。こうやってわざわざ相談してくるし、どれだけ本気かが伝わってくるからこちらとしても益々応援したくなる」

 

 やはり遠藤は物事を広く深く見るタイプだ。

 遠藤のアドバイスを聞いて狭まっていた視野が元に戻った気がする。

 恋は人を盲目にするというがそのせいでから回ってしまった。

 しかしもう自分の気持ちに迷いがなくなった。


「ちなみにだけど、なんかドキドキしたエピソードとかある? 学校でもよく話してるし純粋に気になるんだけど」


 最近の印象に残っている出来事といえば膝枕だろうか。

 琴美のからかいには毎回ドキドキされているのだが、膝枕に関しては突然だったのでかなり胸が動いた。

 

 柚衣はそのことを遠藤に話した。

 すると、なぜかジト目で見られてしまう。

 そしてため息さえつかれてしまう。


「あー、えっと、まだ付き合ってないんだよね?」

「付き合ってないけど......」

「まあ......頑張って」


 少し遠藤の言動に引っかかったものの、柚衣は追求することなくその後は談笑して終わった。

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