第22話 思い出とお揃い

「天瀬はまだ来てないか、ちょっと早く来すぎたな」


 午後一時二十分ごろ、柚衣は待ち合わせ場所であるいつも華燐と遊んでいる公園で琴美を待つ。

 

 あっという間に二学期も終わり、冬休みに入った。

 柚衣は琴美にデパートを提案したところ承諾したので出かけ先はデパートとなった。

 琴美の誕生日プレゼントを華燐と買いに行ったところだ。


 行きたいところはあるか琴美に聞いてもどこでも良いと返されていた。

 イルミネーションなどを見に行ってもよかったのだが趣味に合うかどうかわからない。

 だから様々な店があってバリエーションがあるデパートにしたのだ。

 ゆっくりしたい、もしくは話したいのであれば適当に店を回って気に入ったところででカフェをしても良い。

 遊びたいのであればゲームセンターがある。


 五分程度、ベンチに座って公園に置いてある時計を眺めながら考え事をしていると足音が聞こえてくる。

 音の方向を見てみれば私服姿の琴美が柚衣の目に映る。


「こんにちは。お待たせしました、すみません」

「いや、俺が早く来すぎただけだから大丈夫」


 現在は待ち合わせ時刻の五分前だ。

 琴美の方だって早く来ている。


「服、似合ってるな」

「え? あ、ありがとうございます」


 たまに柚衣は家に遊びに来る時など琴美の私服を見ている。

 別にその時は何も思わない訳だが今日は一段と可愛く見える。

 柚衣の心持ちによる勘違いなのか琴美が意識していつもとは違うコーデをしてきたからなのかはわからない。

 しかし服が似合ってることを素直に口に述べることは悪いことではない。


「花沢くんもかっこいいですよ......はい」

「そう? ありがとう。ファッションとか意識したことないけどちょっと頑張ってみた」


 褒められての照れ隠しによる逃げなのか頬を赤らめながら琴美もそう言う。

 琴美にかっこいいと言われてホッとしたので柚衣も礼の言葉を口にする。

 

 特に外出をしない柚衣にとってファッションとは無縁の関係だと思っていたが少し頑張ってみたのだ。

 遼というセンスに満ち溢れた心強い味方がいるので一緒に選んでもらい何着か服を買っていた。

 折角の機会だから買ったというだけで別にこの日のためだけに買った訳ではない。

 少し似合っているか不安だったのだが、琴美の反応を見る限りは大丈夫そうだ。

 おそらくこの先もお世話になるだろう。


「じゃあ行くか」

「そうですね......友達とどこかに出かけるなんて久しぶりです」


 (今日は琴美には楽しんでもらおう......琴美が楽しければ俺も嬉しいし)


 柚衣は心の中で小さな決意をした。


 ***


「クリスマスは明日ですけどやっぱり人は多いですね」

「だな、置物もいっぱいあるし」


 そんな会話をしながらデパート内を歩いて行く。

 今日はクリスマスイブで明日がクリスマスだ。

 故に様々なイベントをやっていて商品を買うたびにくじの券などがついてくる。

 しかし回したところで結局当たらずにティッシュをもらって終わるのが定番。


「あ、ちょっとこの店見てもいいですか?」

「わかった」


 琴美が目をつけた店に入れば、可愛い小物がいっぱい置いてある。

 動物の絵が描かれたマグカップやポーチ、スマホケース。

 花柄のものもあり、好きな人には刺さりそうな商品がたくさん並んでいる。


 琴美の部屋にも動物の人形がいくつかあったりしていたので好みなのかもしれない。


「動物柄とか花柄の物がいっぱいあるな」

「ですね、可愛いものばかりです」

「天瀬はちなみに何の動物が好きなんだ?」

「うーん......シマエナガですね」

「シマエナガ?」

「はい、北海道に生息している白色の可愛い鳥です」


 琴美は楽しそうにシマエナガについて述べている。

 少々気になるので後でスマホで調べようと柚衣は思った。


 しばらく店内を回っていると気になる商品があったため、柚衣はそれに手を伸ばす。

 鳥の柄が描かれた可愛らしいマグカップだ。

 すると同時に横からも手が伸びてきてそれを取ろうとする。

 

 手から辿って顔をみれば琴美が横にいる。

 どうやら琴美もこの商品が気になったらしい。

 しかし琴美は柚衣が手を引っ込める前に手を引っ込めた。

 

 なので柚衣はそれを手に取ってそれを琴美にも見せる。


「その鳥がシマエナガです。可愛いですよね」

「なるほど、結構丸っこいんだな」

「そうですね、それに結構もふもふしてそうなんですよ。一度北海道に行って見てみたいです」


 柚衣はあることを思いつく。

 思い出に残すとしたらぴったりなことだ。


「なあ、もしよければ何だがこれお揃いで買わないか?」

「え?」


 琴美は目をパチクリとさせる。

 そしてシマエナガの絵が描かれたマグカップを見つめる。


 ほんの少しだが沈黙が流れるので変なことを言ったかもしれないと柚衣の心に羞恥が押し寄せてくる。


「あー、いや、やっぱり忘れて......」

「それ良いですね。お揃いで何か買いたいです」


 柚衣が発言を撤回しようと思ったところ、琴美は乗り気のようで目を輝かせる。

 

「そっか、じゃあ何か買うか。別にこのマグカップじゃなくてもいいんだけど......」

「あのキーホルダーなども良いですよね」


 お揃いで買う商品を選んでいく。

 そして結果的に買った商品は最初のシマエナガのマグカップになった。


「......ふふ、嬉しいな」


 店を出た時に琴美はボソッと独り言を呟く。

 ただ、それは柚衣の耳元に届いてしまい柚衣の胸はさらに幸福感で満たされた。

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