第14話 やりたいことリスト
「さん付けやめない?」
オレンジジュースを一口飲み、柚衣は琴美にそんなことを提案する。
琴美は驚いた顔をするが納得する。
「たしかにそうですね。友達にさん付けはあまりしないですし......では、えっと」
琴美はそう緊張することでもないのに息を吸い、言う。
「は、花沢......はなっち」
「はなっち!?」
思わず吹き出してしまいそうになるが柚衣はそれを抑える。
あだ名でも構わないのだが流石に却下だ。
「普通の呼び名でいいよ。花沢く......」
「で、では! は......はなゴン?」
「んー、マスコットキャラにいそうな名前だな」
「分かりました。では、花宮くん?」
「うん、もはや誰」
「じゃ、じゃあ、花沢......くん」
どうやら少しくん呼びするのが恥ずかしかったらしく琴美の顔は赤くなっている。
その様子を見た柚衣は無性にからかいたくなる。
「名前呼びでもいいんだぞー」
「け、結構です! 」
さらに琴美の顔は赤くなる。
琴美は友達が今までいなかったから友達同士が無意識にやることに慣れていない。
それは柚衣も同じだが孤独という訳ではなく幼馴染がいたのである程度友達とはどういうものか知っている。
「あの、からかってますよね......もう、ずるいです」
「ずるくないよ、友達だからからかってるんだ」
柚衣がニヤニヤとしていたからか琴美は若干拗ね気味になる。
姉妹で拗ねる表情がほぼ一緒なので思わず笑ってしまう。
「さ、さっさとシフォンケーキ食べちゃってください!」
流石にからかいすぎかと思い柚衣は言われるままシフォンケーキを口にする。
相変わらずの美味しさでおやつにちょうど良い。
「うん、美味い」
「良かったです。では食べたら勉強を再開しましょうか」
「そうだな、課題はまだまだ残ってるし」
定期テストの時にギリギリまでよく追われるのが各教科の先生から出される課題である。
ただ今回は良いペースで進めているので余裕を持って終わることができそうだ。
そしてシフォンケーキを食べ終えた二人は勉強を再開する。
数学はひとまず終わり、英語を勉強しようと柚衣はペンを走らせる。
範囲の教科書単語と文法を覚えて最低限のスタートラインなのでひたすらに覚えるしかない。
苦手ではないので少なくとも点数を稼ぎたい。
過去のノートと教科書を見ながら勉強していくのだが柚衣はあることに気づく。
(......ノートちょっと汚くね)
それほど荒れている訳ではないのだが少々見にくく、復習しづらい。
前のページも同じような形で書いていて、眠かった時のノートは字が汚くてそもそも見えない。
「天瀬、授業の時使ってるノートちょっと見してくれないか? 参考にしたい」
「あ、いいですよ、ちょっと待っててくださいね」
学年一位のノートはどのような形で書かれているのだろうか。
ノートだけで成績が変わるとは思えないが少なくとも柚衣のノートは改善したほうが良いと考える。
琴美は勉強用具が置かれている棚の段からノートを数冊取り出して柚衣に渡す。
「どうぞ、全教科ごとのノートです。参考になるか分かりませんが......」
「ありがとう」
柚衣はパラパラとそれぞれのノートをめくっていく。流石と言ったところで字は丁寧だ。
自身のノートと琴美のノートを見比べて違いを実感する。
様々な色で分けられているのかと思ったがそんなことはなく赤、青、黒以外は用いていなかった。
「あんまり色使わないんだな」
「そうですね、覚えるべきところは青で書いて重要なところは赤で書いています。色ごとに仕分けると面倒なので」
「たしかに、それはあるか」
ノートの質を意識するより、復習のしやすさに重点を置いた方が良い。
テストに出そうなところは枠で括ったり色で強調する。
必要以上のことはメモせず、復習をすることでメモを付け加える。
どれもとてもまとめ方が考えられたノートだ。
「復習しやすいようにって感じか」
「そうですね、私は基本予習をして授業を受けて、その後に復習を繰り返す形でしているので」
そして柚衣は最後のノートを見ようとめくろうとする。
ただ、そのノートには教科の名前ではなく『やりたいことリスト』と書かれている。
これも勉強に関係があるものなのだろうか。
「これは? やりたいことリスト......」
「あ! それは!」
柚衣はノートをめくろうとする。
しかし琴美に止められ、ノートを取り上げられる。
「こ、これはダメです......! 絶対に見ちゃダメです!」
「お、おう、そうか」
勉強関係なく琴美が間違えて渡した個人のノートらしい。
琴美の頬は赤く、目を逸らしている。
「何のノート?」
「は、花沢くんには関係ないです、お気になさらず!」
琴美はそう言ってノートを急いでしまった。
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