第10話 モテ男故の悩み

「ふわあああん、聞いてくれよ、柚衣ー!」


 昼休み、柚衣は遼に昼食を誘われて久々に一緒に食べている。

 

 親友であり幼馴染とはいえ遼は男女問わず人気者なので柚衣と昼食を食べることはあまりない。

 故にぼっち飯が多くなる。そんな柚衣を遼は気にかけているがあまり何も思っていない。

 自分から線引きしているので遼と食べられれば嬉しいなくらいだ。


 ただ、今回遼は柚衣にしかできない相談事があるらしく他の子の誘いを断っている。

 こういったことは月に一回くらいはあるのでその度に柚衣は相談に乗っていた。


 その相談事はかなり深刻らしく涙目になって喚いている。

 ただ、男子高校生とは思えず遼に全く似合わない乙女の仕草に悪いと思いながらも吹き出してしまった。


 遼に潤んだ目で睨まれるがその姿も拗ねた小鳥のようで笑いを堪えるのに必死だ。


「笑うなよ......」

「すまんすまん、それで相談事って?」

「......女子にまた告られた。振ったけど」


 どうやらまた女子絡みのことらしい。

 中学生の頃から年齢問わず女子にかなりモテている遼はその容姿故に良くトラブルに巻き込まれている。

 それは学校の域をとどまらず成年者にも迫られたり、ストーキングされたり、本人にとってはどれもトラウマだ。


 そのためほぼ女性不信になっている。

 本人は女子にも明るく振る舞い、笑顔でいるが話すだけでも怖いらしい。

 

 そのことを公にして病院かどこかで見てもらったらどうか、と柚衣は前に言った。


 すると、別に本人たちに悪い気がないのはわかっているし心配かけるのも嫌、とのこと。

 どこまでお人好しなんだと思ったものの、その性格が遼のモテる所以だろう。


「告るのは個人の感情だし好きにしてほしんだけどさ、それが原因で喧嘩になってるんだよ......」

「ああ、なるほど」


 要するに恋愛絡みのトラブルだ。

 恋愛ごとになると仲の良い者同士でも喧嘩に発展することがある。


 告った子ともう一人の遼が好きな子がお互いに言い合いになり、喧嘩に発展した。

 

 詳細はよく分からないが、振られたことを罵られた、もしくはその告白が抜け駆けだった。

 正確には違ってもこの二パターンに分類される。柚衣にはよくわかっていた。


「俺の前でついには罵り合い始めたしさ......俺っていたらいけない存在なのかなあ」


 遼の周りにはドス黒いオーラが漂っている。

 闇堕ちした元主人公のようだ。


 遼は喧嘩を好まず、誰でも平等に接する。みんな仲良くやっていきたいという考えの持ち主だ。

 そのため余計に傷ついたのだろう。


「とりあえず今日ゲーセン行こうぜ? 気分発散になるかもな」


 前に遼が元気付けられた言葉を送っておく。

 華燐との遊びがなくなることに申し訳なさを感じるが友人のことも大切だ。


「柚衣......俺、柚衣と出会えて良かったよおおおおおおお」

「おい、ばか! やめろ! 暑苦しい!」


 遼は人目も気にせずに柚衣に抱きつこうとする。

 柚衣は両手でそれを阻止する。


 攻防をしばしの間していると生暖かい視線を感じると共に上品な笑い声がした。


「ふふ、お二人とも仲がよろしいですね」

「天瀬か、仲良いっていうより勝手に寄られているだけなんだけどな」


 琴美は昼食を持って机の向かい側に立っている。


 再び上品な笑いをされ、柚衣は若干の羞恥を感じたが困惑というより琴美は羨望に近い視線をしている。

 それが柚衣の羞恥をなくした。


「私も一緒に食べても良いでしょうか?」


 琴美はそう言う。柚衣としては問題なかったが遼の方は問題ありだった。

 横を見てみれば少々青白い顔で作り笑いを浮かべている。

 直近のトラブルもあり、女子に対する恐怖心が隠せていない。


 柚衣は理由をつけて断ろうと思ったが、その前に遼は許諾した。


「柚衣って天瀬さんと仲良いの?」

「んー、接点があってそこからちょっとだけ仲良くさせてもらってる」

「はい、花沢さんには手伝ってもらっているので」

「ふーん、柚衣に友達がいたとは......」

「友達っていうか......知り合い? とりあえず天瀬には感謝してる」


 琴美は一瞬動きが止まった。そして作り笑いを浮かべる。

 柚衣がその変化に気づくことはなかったが、謎の空気の重さを感じ取る。

 

 横をみれば若干手が震えている遼が、前をみれば琴美が作り笑いだと一瞬でわかる笑みを浮かべている。


「知り合い......そ、そうですね。私も花沢さんには感謝しています」


 突如として一気に重くなった空気に柚衣は押しつぶされそうになる。

 そして徐々に刺さり始める視線。


 王子様と天使様が同席しているのだから当然だろう。


「うわ、遠くから見ても天使様輝いてんのな」

「白馬の王子様みたい......眼福......」

「あのコンビ絶対にお似合いだよな。あんまり話してるところ見たことないけどこれは貴重だな」


 物珍しげな目で見る人もいれば尊貴の視線も感じられる。

 様々な視線が一気にこちらへと向けられている。


 しかし決して温かいものだけではない。


「あの子誰?」

「天使様と王子様に囲まれてんのズル」

「明らかに釣り合ってねえし普通に邪魔じゃね?」

「王子様の幼馴染らしいよ。あんなやつが天使様と話すなって話。虎の威を借る狐ってやつ?」


 柚衣にはかなり冷たい視線が向けられている。

 

 パッとしない陰キャが二人の間に挟まれていること自体がよく思われていない。

 そこまで傷つくことはないが視線と空気で居心地が悪いのも事実。

 遼も琴美と長い間話していると倒れかねない。


 琴美はまだ食べているが遼とともに先に片付けることにする。


「じゃあお先、ごちそうさま」


 そう言い、少し固まっている遼を引き連れて席を立った。

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