第42話 迷走

 クリストフたちがレティシアの行方を追って馬を走らせる中、荒野にぽつんと一つだけ鎮座する岩山を見つけたのは、三十分ほど前のことだった。 

 岩山といっても、人間の足で歩いて十分程度で一周できる程度の岩山だが。


「ジェイク、この岩山全体を照らすことはできるか。もう一度、調べたい」

  

 何の変哲もないただの岩山、そう言ってしまえばそれまでだが、荒野には不似合いなようにクリストフには思えた。


「できなくはないが……怪しいところはなかったぞ」

 二人で見て回ったが、洞窟の入り口らしきものは見当たらなかった。


「何度調べても、何もない気がするけどな。先へ進んだほうがよくないか」


 月明かりを頼りに探索したから、見落としがあったのかもしれない。そう言いたいのだろうとジェイクは解釈し、時間ばかりが過ぎてしまうのではと懸念する。


「いや、微かだがから感じるのだ」

 ペンダントに込めた、自身の魔力を。


 例えるなら、残り香。魔力が通過していった跡を辿って、ここまで追って来た。


「ここを通った……というのではないんだな? わかった、クリストフがそう言うなら──稲妻球ライトニングボール

 

 理解したジェイクは右腕を空へと伸ばし、手のひらを天に向ける。すると四方から、空中電気が雷線となって、ジェイクの手のひらに集まって来る。そして次第に、大きな球となった。さながら大きな電球といった感じだ。それをジェイクは天高く投げ上げる。


とどめることはできない。徐々に高度を下げてくるが、地面に触れる前に消滅させる」


 地面に触れることで、爆発を起こしてしまう恐れがある。


「ああ、頼んだ。私はもう一度、岩肌を調べてくる」


 クリストフは馬を操り、岩山に沿ってゆっくり進んで行く。


(どこかに入り口があるはずだ)


 しかし、目を凝らし必死に探すが、亀裂すら見当たらない。高位にも目を走らせるものの、それは同じで。


「なぜ入り口が見つからない」


 もう一度、もう一度だ。


 今度は逆回りで入り口を探す。


「くそっ! 絶対に、絶対にこの中にレティシアがいるはずなのだ」


 しかし岩山を再度一周しても、なんの手がかりも掴めなかった。

 歯がゆさに、手綱を握っているクリストフの手が震える。


「クリストフ、冷静になれ。きっとなんらかのがあるはずだ」


 レティシアを一刻も早く助け出さなければ。その焦りが、目を曇らせているのかもしれない。


「そうだな。ありがとう、ジェイク」


 クリストフは一度岩山から距離を取った。そして全体を、角度を変えながら観察する。


(妙だな──まるで作りもののような……)


 違和感が湧いた。自然から生まれた岩山が、こうも整っているだろうかと。


 左右対称──岩山はどこから見ても、同じ形をしていた。


「ジェイク、この岩山は、魔法によるものかもしれない」

「魔法だって! ということは、土属性か。しかし、賊のような輩がなぜ魔法を?」


 本来、悪の心を持つ者に、魔法は発動させられないはず。なぜなら、魔力を授けた神がそう定めているからだ。それがこの世界のことわり


「それはわからない。だが、今は後回しだ。これより岩山に、衝撃を与える」


 異変を感じ、動きを見せるかもしれない。


「了解、壊さない程度にってことだな」


 中にはレティシアがいる。瓦礫の下敷きになるようなことがあってはならない。


「では、始めようか」

「ああ、まずは俺からいく。はーーー、『落雷の槍サンダーボルトスピア』」


 術が発動し、天から放たれた稲妻が、雷鳴と共に槍のように岩肌に刺さる。そこを起点に、ゴゴゴーっと地震のように岩山全体に振動が伝わっていく。


「次は私だ。『雹嵐ヘイルストーム』」


 空から無数のひょうが、滝のように降ってくる。それが絶えず岩肌を叩く。


 さあ、姿を現せ。盗賊ども──


 何人なんぴとたりとも逃がしはしない。


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