第10話 バレた……

「優奈、話がある」


 ある日、お兄ちゃんが真剣な表情で話しかけてきた。

 なんでこんな怖い顔してるんだろう?

 何かあったのかな?

 とりあえず、アタシはお兄ちゃんの言葉に返事した。


「話って何?」


 アタシがそう言うと、お兄ちゃんは間髪を入れず本題に入った。


「お前、浮気してるだろ?」

「っ!?」


 頭の中が真っ白になる。

 え? なんで?

 なんで浮気してること知ってるの?

 どこでバレたのかな……?

 つか、いつから気づいてたの?

 つい最近?

 それとも、前から?

 ダメだ、分からない。


 次々と疑問が浮かび上がる。

 

 どうしよう。

 正直に浮気してること認めようかな?

 けど、そんなことしたら、アタシとお兄ちゃんの関係が壊れちゃうっ……。

 なら嘘つくしかないか。


「もう何言ってるの? 浮気なんかしてないよ?」

「本当か?」

「うん、本当だよ?」

「本当に浮気してないんだな? なぁ本当なんだよな?」

「うん、浮気なんかしてないよっ」

「ならこれはなんだ?」


 お兄ちゃんはポケットからスマホを取り出し、

 画面をアタシに見せてくる。


 スマホの液晶画面にとある動画が再生されていた。

 

「う、うそ……? なんで?」


 動画を見て、動揺を隠せなかった。

 予想外な展開に、頭が追いつかない。


 スマホの画面には裸のアタシとカズキくんが映っていた。

 動画のアタシはカズキくんの身体に跨り、激しく身体を動かしていた。


『優奈ちゃん、気持ちいい?』

『うん、すっごく気持ちいいよっ……気持ち良すぎて頭がおかしくなっちゃうっ……』


 動画のアタシはカズキくんの身体を貪り、甘い声を出していた。

 ベッドがギシギシと軋む音と、チュッチュッとキスの音がスマホのスピーカーから聞こえてくる。

 なんで?

 なんでこんな動画持ってるの……?

 意味わかんないっ……。


 混乱しているアタシに、お兄ちゃんがドスの利いた声で話しかけてくる。


「お前の彼氏は誰だ?」

「お兄ちゃんです……」

「本当に俺か?」

「は、はいっ、お兄ちゃんです。お兄ちゃんがアタシの彼氏です」

「ほう、そうかそうか。じゃあ質問を変えよう。この動画に映ってる男は俺か?」

「ち、違います」

「そうだよな、この動画に映ってるのは俺じゃないよな? そうだよな?」

「は、はいっ」

「この動画に映ってる男とお前、何してる?」

「そ、それは……」


 お兄ちゃんの言葉に返事を窮する。

 どう返事すればいいのか分からない。


「おい、黙るな。ちゃんと質問に答えろ。動画の映ってる男とお前、何してる? 何してるように見える? ほら、ちゃんと答えろ」

「せ、セックスしてます」

「そうだな、セックスしてるよな」

「は、はい……」


 そう、動画のアタシはお兄ちゃん以外の男と愛を確かめ合っていた。

 今のスマホのスピーカーから「あっあっ……」とアタシの喘ぎ声が聞こえてくる。


「なんで俺じゃない男とセックスしてんの? なんで彼氏以外の男とこんなことしてんの? なぁ答えろよっ」

「そ、それは……」


 必死に頭を回転させて、説得力のある言い訳を探す。

 脳内で言い訳を探していると、再びお兄ちゃんが口を開いた。


「さっき浮気してないって言ってたよな? なぁ言ってたよな?」

「はいっ、言いました……」

「じゃあこれはなんだ? なんで俺以外の男とセックスしてんの? これ浮気じゃないの? セックスは浮気じゃないの? なぁちゃんと答えろよ」

「ご、ごめんっ、本当にごめんっ……」


 脊髄反射で謝罪すると、お兄ちゃんは小首をかしげる。

 不思議そうな表情を浮かべていた。


「ん? なんで謝ってんの? なにか悪いことしたの? ねぇ何した? どんな罪犯したの?」

「浮気しました……」

「え? なんて? もう一回言って?」

「浮気しましたっ……」


 再びお兄ちゃんは小首をかしげる。


「え? 浮気しちゃったの? あれ? けどおかしいなぁ~。さっき浮気してないって言ってなかった? もしかして嘘だったの? 俺に嘘ついたの?」

「ご、ごめんっ……嘘ついてごめんなさい」

「……」


 バレたっ。

 お兄ちゃんに浮気してることバレちゃったよ……。

 どうしようっ。

 どうしようっ。

 どうしようっ。


 パニック状態に陥り、考えが纏まらない。

 とにかくアタシは謝罪した。

 謝罪することしかできなかった。


「ごめんなさいっ、本当にごめんなさいっ」

「……」

「もう浮気しないから許してっ、お願いっ」

「へぇ~、もう浮気しないの?」

「は、はいっ!! 絶対に浮気しませんっ! だからもう一度だけチャンスをください」


 アタシの言葉にお兄ちゃんは「はぁ……」とため息を吐く。

 呆れている様子だった。


「あのさ、今の優奈を信用できるわけないだろ。どうせ、一年ぐらいしたら、また浮気するくせに」

「しませんっ!! 絶対に浮気しませんっ!」

「浮気女の「浮気しません」なんて言葉信じられるわけねぇだろ。無責任なこと言うな、このカスがっ」

「……」


 昔からお兄ちゃんは優しかった。

 欲しい物頼んだら買ってくれたし、アタシが悪いことしても怒らないし。

 そんな優しいお兄ちゃんなら浮気しても許してくれる、と思っていた。

 けど現実は違った。

 たぶん、このままじゃお兄ちゃんにフられる。

 そんなのイヤだよ……。

 

「お願いっ、なんでもするからアタシのこと許してっ」

「ん? なんでもしてくれるの?」

「は、はいっ! なんでもしますっ!」

「本当になんでもしてくれるんだな?」

「はいっ!」

「ほう、そうか、そうか」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る