第7話 浮気?
3年が経過し、高校を卒業した。
三年間、それなりに勉強を頑張っていたおかげで、
有名な私立大学に進学できた。
それと同時に、ファミレスでアルバイトを始めた。
俺はコミュニケーション能力がないから、バイト仲間と会話するのが苦痛で仕方ない。
客にメニューを窺う時も強烈なストレスを感じる。
なんで接客系のバイトにしたんだよ、俺は……。
一人で黙々と作業できるバイトにすればよかった。
過去の自分を呪いたくなるな……。
「お疲れ様です……」
バイトが終了し、俺はロッカーで制服から私服に着替える。
着替え終えた俺はバイト先を後にし、自宅に向かって歩み始める。
5分後、自宅に到着した。
俺は玄関の扉を開けて、家の中に入る。
玄関で靴を脱いでいると、ニ階から女性の甘い声が聞こえてきた。
「んっんっ……あぁっあぁっ……」
ベッドがギシギシと軋む音まで聞こえてくる。
なんだ、この声は……?
「あっあっ……んっんっ」
再びニ階から女性の甘美な声が聞こえてくる。
これは……優奈の声か?
アイツ、ニ階で何してるんだ?
気になった俺は慌ててニ階に移動する。
ニ階に近づくにつれて、女性の甘い声が大きくなる。
声の発生源は優奈の部屋からだった。
優奈の部屋からってことは……やはりこの甘い声は発しているのは優奈か。
俺はドアの隙間から部屋の中を覗く。
「え……?」
優奈の部屋を覗いた瞬間、頭の中が真っ白になる。
理解ができなかった。
とても現実とは思えなかった。
今、俺の視界にはファンタジーのような光景が広がっていた。
「んっんっんっ、あっあっあっ」
優奈が謎の男の身体に跨っていた。
優奈は恍惚な表情を浮かべ、激しく身体を動かしている。
幸せそうな顔だった。
あんな幸せそうな顔、恋人の俺ですら初めて見たよ。
アイツ……あんな顔できたんだな。
「優奈ちゃん、気持ちいい?」
「うんっ、カズキくんのすっごく気持ちいいよっ……」
「彼氏さんとどっちが気持ちいい?」
「カズキくんに決まってんじゃんっ……もうカズキくんじゃなきゃ満足できないよっ」
「ははっ、そっか、そっか」
「ねぇそんなことより、もっとチューしよっ」
「いいよ」
「んっんっ、ちゅっちゅっ……」
優奈の部屋にチュッチュッと不快なBGMが流れる。
部屋中がオスとメスの匂いに包まれる。
ベッドが軋む度に、優奈の口から甘い声が発せられる。
優奈は何やってんだ?
お前の恋人はソイツじゃないぞ?
俺だぞ? 俺がお前の恋人だぞ?
おいおい、そんなことも忘れたのか、お前は?
落ち着け、冷静になるんだ。
冷静さを失った人間は猿同然だぞ?
俺は深呼吸をする。
よし、落ち着いてきた。
ひとまず状況を整理しよう。
バイトから帰ってきたら、優奈が謎の男とセックスしていた。
あの男は誰だ?
知らん……。
たぶん、優奈の友達かなんかだろう。
仲良くなり、二人は肉体関係になったと思われる。
いつからだ?
いつからコイツらは肉体関係にまで発展した?
そういえば……三ヶ月前から優奈の言動と行動に違和感があった。
セックスに誘っても断ってくるし、
デートに誘っても「明日は忙しいの」と冷たくあしらわれることが多々あった。
最近、家に帰ってくる時間も遅いな。
コイツ、いつも0時30分頃に帰ってくるんだぜ?
怪しすぎるだろ……。
間違いない、コイツは三ヶ月前から浮気している。
クソっ、イライラする。
今すぐ優奈を殴りたくて仕方ない。
いや、待て、待て。
なんで俺は怒りの感情を覚えているんだ?
俺はどうして怒っているんだ?
あぁ〜、なるほど。
そういうことか。
やっと理解できた。
俺は優奈を信頼していたんだ。
優奈は素直で優しい女の子だから、浮気なんか絶対しないと思い込んでいたんだ。
あの子は大丈夫! 絶対浮気しない!と勝手に優奈を信じ、その期待を裏切られて怒りを覚えているのだ。
つまり、一番悪いのは俺だ。
優奈は絶対浮気しない女だ、と信用していた俺が一番悪い。
最初から優奈を信用してなかったら、傷つくことも裏切られることもなかった。
あんなヤツ、信用しなかったらよかった……。
けど謎だ。
どうして優奈は浮気したんだ?
いや、やめろ。そんなこと考えるな。
優奈は浮気した。過程なんかどうでもいい。結果だけを求めろ。
さて、これからどうするか。
優奈と別れようかな?
いや、それだけじゃ味気ないな。
浮気した愚か者には罰を与えないと。
罰を与え、ちゃんと後悔してもらおう。
おそらく、優奈は浮気がバレても大丈夫、と楽観的に考えているはずだ。
お兄ちゃんは優しいから浮気も許してくれる、と先入観を抱いているに違いない。
俺が優しい?
ははっ、何言ってんだ、そんなわけねぇだろ。
優奈、俺は優しくないよ。
どちらかというと、冷たい人間だ。
じゃあなんで俺はお前に優しくしてあげたか気になるか?
お前が恋人だからだよ。
お前のことが大好きだから優しく接していたんだ。
優しい人間のフリをしてただけだよ。
けど、もうお前は俺の恋人じゃない。
ただの他人だ。
ただの他人にも優しさを向けるほど、俺は温かい心の持ち主じゃないぞ。
もう優しい人間の真似事は終了だ。
地獄に落としてやる、優奈。
覚悟しろ。
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