第4話 合同キャラクターショー当日、恥ずかしいハプニング

合同キャラクターショー当日。

彼は気持ちが割り切れないままショーに挑むことになった。

更衣室はもちろん男女別で別れる。

普段のショーでは敵役のアクター数人といっしょに着替える程度なのだが、今回にいたっては周りに10人以上の男性アクターと一緒に着替えることになる。彼が憧れたヒーローの格好いい衣装に着替えるアクターたち。そんな中ただ一人プニキュアの着ぐるみに着替えなければならない。これは彼にとってこの上なく恥ずかしいことだった。


着ぐるみは基本的に他の人に手伝ってもらわないと最後まで着替えることができない。

プニキュアの着ぐるみも例外ではない。彼は今回一緒にキャラクターショーに参加していた同期のアクターに頼んで着せてもらうことにした。同期のアクターは普段プニキュアの着ぐるみをまじかで見たことが無いらしく着ぐるみの構造の違いや衣装のサイズ感などに興味を持っていた。「基本的に女性用だからかなりサイズが小さいんだな」とか「毎回こんなキツイ衣装を着なくちゃいけないのは大変だな」とかそういった同情の言葉がさらに彼の羞恥心を煽った。


着替えも終わりショーが始まった。

彼は勢いよくステージの真ん中に走っていく。目の前にはいつものショーよりも何倍ものお客さん達がいる。それに今日は合同キャラクターショーということもあって女児のほかにも男児、その親御さん、そして大きなカメラを構えた特撮ファンと思われる男性たちがいつもよりかなり多い。そんな中で彼はプニキュアとして女の子らしい可愛い仕草を要求される。

恥ずかしくてたまらなかった。こんな女性でも恥ずかしいと思うフリフリで可愛い衣装を着て、顔をアニメからそのまま出てきたようなマスクで覆い、沢山の人の目に晒されながら女の子を演じなければいけないなんて。

彼はもう汗まみれだった。大舞台での緊張、観客のからの視線による羞恥心、加えて冬の屋内だったこともあり暖房がガンガン効いている。

可愛い着ぐるみのマスクとは裏腹に着ぐるみの中の彼は口が渇き、暑さに苦しみ、恥ずかしがっている。早く終わってくれ!そんな心の声もむなしく彼はセンターで一生懸命ステージをプニキュアとして駆け回っていた。


ショーも終盤に入る。彼はもう汗びっしょりになっていた。体力が多い彼でも普段とは比べ物にならない大舞台の緊張も相まってかなり疲れていた。そしてあることに気づく。

観客が彼を見てくすくすと笑うようになったのだ。今までそんなことはなかったのに、おそらくショーの中盤辺りからだろうか?

彼は焦った。もしかして男の自分がプニキュアの着ぐるみを着ていることがばれてしまったのではないか?それで観客たちは笑っているのではないか?

いい年の男がこんな可愛い女の子の着ぐるみを着て、女の子のような演技をすることに。彼の心は羞恥心や焦り、疲れなど色々相まってぐちゃぐちゃになっていた。

周りのアクターもやはりチラチラと彼を見ている。中にはジェスチャーをして彼になにかを伝えようとしているアクターもいた。しかし今の彼はそれに気づく余裕が無かった。

そして一人のアクターが彼に不自然に近づいていった。彼の同期のヒーロー役のアクターだ。マスク越しに彼に小さな声で耳打ちする。本当は着ぐるみを着ているとき声を出してはいけないのだが。


「スカート!スカートがめくれてる!はやくなおして!」


彼がその言葉に驚愕する。マスクの小さな覗き穴からスカートを見る。なんとスカートの前の部分が衣装にひっかかってめくり上がっていたのだ!彼はプニキュアであることも忘れて乱暴にスカートを戻した。


これで観客から笑われていたのか!もしかして中盤から今まで…!?


彼はマスクの中で顔が真っ赤になっていた。着ぐるみ越しとはいってもずっと股間がさらけ出されいたってことに。その姿をずっと観客から見られてしまったことに。恥ずかしくてたまらなかった。

しかし今はショーの真っ最中だ。逃げ出すわけにはいかない。彼はプニキュアであること思い出し今度はスカートをポンポンとかわいらしく丁寧に直し、片手を頭にポンと小突いて恥ずかしがるポーズをとった。会場が大きな笑いに包まれた。


ショーが終り撮影会が始まる。彼は先ほどのミスを未だに引きずっている。しかしまだ彼はプニキュアである以上、可愛く女の子らしく振る舞わなければいけない。気持ちが変に高まってしまいなかなか集中できていなかった。

それに気づいたのか近くにいたプニキュア役の女性アクターからマスク越しに小声で「大丈夫?体調が悪いの?ダメそうだったら舞台裏に一緒にいくよ?」と耳打ちされる。どうやら体調が悪いと勘違いされてしまったみたいだ。

彼は彼女に首を振り、手でOKを作った。

彼女も手でOKを作り彼から離れていった。


集中しないと…あんなことがあってもまだショーは終わっていないんだ。


彼は気持ちを切り替え女児たちと一緒に沢山の写真を撮られた。


あの恥ずかしい合同キャラクターショーから数週間が過ぎた。

あのショーでのハプニングは「スカート事件」と言われ、彼にとっていい意味でも悪い意味でも有名になっていた。

しかも不幸なことにショーの動画や写真がSNS上にに投稿され、かなりの閲覧されていしまっている。特に再生数が多かったのは彼がめくれたスカートを可愛らしくなおす動画だった。

彼の恥ずかしい姿が不特定多数の人に晒されることになってしまったのだ。


そんなことがあったものの、ハプニング時の冷静な反応やそれを笑いに返るアドリブ力、大きなステージ上での立ち回りやそれをショーの最後まで継続できる体力、そしてなにより主役を任せてもプレッシャーに負けず役を演じきれる演技力が評価され、彼のアクターとしての評価はかなり上がっていた。しかしそれはあくまでプニキュアアクターとしてのものだった。


案の定彼の元にはプニキュアのアクターの仕事がさらに増えた。以前のようにキャラクターショーの仕事だけではなく、大きめのテーマパークでのキャラクターショーの出演や、キャラクターグッズの販売会でのグリーティングにまで。色々な仕事相手と会うたびに彼のような男性がプニキュアの着ぐるみを着て、さらに男性に似つかわしくない女の子の演技をこなすことに驚かれたりした。

その度彼は恥ずかしさを感じていた。

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