第3話 大抜擢 ヒーローヒロイン合同キャラクターショーの主役に

彼がアクターになって早数年、転機が訪れる。

それは戦隊ヒーローとプニキュアの合同キャラクターショーのアクターとして出演が決定したのだ。

今回もおそらく彼はプニキュアの着ぐるみのアクターだが、当日は特撮ヒーローのショーチームの関係者の目にもとまることになる。そこで実力が見せれられれば特撮ヒーローの仕事がくるかもしれない!彼はそんな小さな可能性にかける。


後日、合同キャラクターショーの配役が決まった。例によって今回もプニキュアのアクターだったのだが、その配役が彼に絶望を与えた。彼は今季放送されているプニキュアの主人公に任命されてしまったのだ。

これは女性アクターなら手放しで喜んだことだろう。なにせ合同キャラクターショーのセンターを飾る主役の演者になれるのだから。

しかし彼の場合は全く状況が異なる。

彼が配役されたプニキュアは所謂ピンクキュアで衣装がピンク色、フリル盛りだくさんの可愛い衣装、ピンクと紫のボーダータイツと可愛さ全開の衣装。しかも精神年齢が低い設定なので女児のように元気いっぱいで可愛らしい仕草を求められるのだ。

アクターとして評価されているということよりも、当日大勢の前でそんな可愛らしいプニキュアの着ぐるみに押し込まれ、可愛さいっぱいに振る舞わなければならない。想像しただけで顔が真っ赤になった。せっかくのオファーを恥ずかしいという理由だけでこの役を降りるなんてことは言えない。


合同キャラクターショーに向けての練習が始まった。プニキュア役で男性なのはまさかの自分だけだった。これは新手のセクハラなのではないか?と彼は思っていた。

色々なショーチームから集められた今回のメンバー、普段なら会わないアクターが沢山いる。彼はやはり他のショーチームでも噂になっており、アクターたちは彼を見るや否や「本当に男性が配役されてたんだ!」といった驚きや「君が噂になってる男性のプニキュアアクターだね」と納得するなど様々な反応をみせた。悪気はないとわかっているし、中には尊敬のまなざしで彼を見るアクターもいる。声をかけられるたびに彼は少し歯切れの悪い反応しかできず、顔を赤くさせていた。


特に女性から声をかけられることが多い。内容は演技や殺陣のやり方など技術的な指導を乞うものが多い。殺陣の話ならわかるが演技にいたってはなぜ「男性の自分が女性に女の子らしい動きの演技指導をしているのか?」と疑問を持ちながら演技指導をしていた。そんなやりとりの中で彼もまた女性らしい動きを他のアクターから目で見て学んでいった。


沢山の視線が集まる中、彼はセンターで女の子らしく可愛い仕草で練習に励む。数々のプニキュアショーをこなしてきた彼の動きはすでに洗練されていて、女の子そのもの。練習の最後まで衰えない体力。「これはセンターにふさわしい」と周りのアクターからもさらに評価が上がっていた。


評価がますます上がるが、彼の心を傷つけたのが、戦隊ヒーロー役の中に女性が配役されていることだった。確かに戦隊ヒーローの中には女性の役があるのだが、彼女たちは男性のヒーローとして男性のスーツに身を包み、男性のように格好よく振る舞っている。彼女たちはみな背も高く、スーツに身を包むとかなり格好よく見える。今の自分とは全く逆の立場だった。

その中の一人の女性から「性別が違う役をするって大変ですよね」「私も貴方みたいに可愛いプニキュアをやりたかった」と言われてしまう。同じ悩みを抱えていたとしても彼の心は嫉妬でいっぱいだった。

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