第5話 ワンマンショー 恥ずかしいレオタードを着せられて

今日も彼はプニキュアのアクターとしての仕事に向かった。それはデパートでのワンマンショー。司会のお姉さんと一緒にミニゲームを楽しんだり、子供たちダンスをして遊んだりといった内容だ。

いつものような男性である彼が派遣させられて司会のお姉さんやスタッフに驚かれる。何回やってもこのやりとりは恥ずかしい。

しかし今日用意されていたプニキュアの衣装を見て彼はさらに辱めを受けることになる。

なんと股間の部分がレオタードになっているのだ。いくら着ぐるみの下に体型補正用のタイツを履いたとしても足が丸見えのデザインなので男性特有の骨格は隠しきれない。股間やお尻などの腰回りがくっきり出てしまう。

しかも彼は今日に限って体型補正用のタイツを忘れてしまったのだ。これでは男性器のふくらみまでもが隠しきれない。

ショーの時間まで刻々と近づいている。自分のわがままでタイツを買ってくる時間もないしショーを遅らせるわけにも行けない。彼の額から大粒の汗が噴き出してきた。


コンコン!

「着替えは終わりましたか?そろそろ準備に入っていただきたいのですが」

彼が着替えに躊躇しているとショー担当の女性スタッフが更衣室のドアをノックし声をかけてきた。


「はい!ごめんなさいまだですちょっとトラブルがあって…」


このままではショーに間に合わなくなってしまう。しかし補正用のタイツをつけないまま着ぐるみを着るのはあまりにも異様な恰好になってしまう。

彼は恥を忍んでドアを開けて女性スタッフに理由を話した。顔を真っ赤にしながら。

いつも着ている体型補正用のタイツを忘れてしまったこと。そして今回のレオタード衣装では下半身、特に股間の部分が不自然に見えてしまうことを。


「ごめんなさい!全然気が回らなくて…ちょっと待っててくださいね!」

女性スタッフは慌ててどこかへ走っていった。少しするとその手にはまだ袋に入った新品のタイツを持っていた。どうやらデパートの売り場から持ってきてくれたらしい。


「女性用なのできついかもしれません。でもどれか使えるものがあったら使ってください。」

「ありがとうございます!」


彼はタイツを受け取ると急いで更衣室のドアを閉めた。いつも使っているような体型補正ができるような構造ではないので何枚か重ねて履くことにした。

タイツは女性用だし重ね履きしているせいもあってかなりサイズがきつい。サイズ的に三枚重ねて履くのが限界だった。これ以上履くと体型は誤魔化せると思うが、動きにくくてショーに支障が出てしまう。それに早く着ぐるみに着替えなくてはショーに遅れてしまう!


「ごめんなさい!ちょっと手伝ってもらってもいいですか?一人だと時間がかかってしまって」

彼は恥を上塗りして更衣室の前で待っている女性スタッフに着替えを手伝ってもらうことにした。

目の前で男性の彼がプニキュアの着ぐるみを着て女性になっていく…女性スタッフは珍しいものでも見るかのように着替えを手伝った。そんな視線を感じ取ってしまい彼は顔をさらに真っ赤にした。


なんとかショーに間に合う時間には着替え終わった。

彼は着替え終わると鏡の前でくるりと回り、自分の姿を確認する。衣装の取り付けに不備はない。だがやはり下半身に目がいってしまう。いつものように体型補正が上手くできていないように見える。よく見れば男性らしい骨格が浮き出てしまっている。足もお尻も、そしてなによりやはり股間がすこし膨らんでいるような気がする。レオタードの衣装がその違和感をさらに際立ててしまっているのだ。

それにタイツを重ね履きしたせいで動くとかなり足が突っ張ってしまい、いつものように軽快に動けないかもしれない。


こんな恰好でショーをしなきゃいけないのか?これは…かなりまずいかもしれない


彼は不安と焦り、恥ずかしさからマスクの中で顔を真っ赤にしてまだ着ぐるみを着たばかりだというのに汗をかいてしまっていた。


「本当に可愛いですね!初めは男性がプニキュアをやるって聞いて不安だったのですが、着ぐるみを着てからあなたの仕草はすごく可愛いし、完璧に女の子ですよ!」


女性スタッフは彼がプニキュアに変身して一気に女の子らしくなったことへの驚きと感動で少し興奮しているようだった。

彼はそれに対してあくまで女の子らしい仕草で照れるしぐさをした。

彼自身無意識のうちに女の子の演技をしていたことに驚きと情けなさを感じていた。まさかショー以外の日常にまで演技が染みついてしまったなんて…

その後女性スタッフから写真を撮らせてほしいとせがまれ渋々承諾し、かわいらしいポーズで写真を撮られる。彼は恥ずかしさでさらにマスクの中で顔を赤くした。

そんなことをしていたら本当にショー直前になってしまったので慌てて女性スタッフに手を引かれ舞台裏まで走っていった。


彼は気持ちの整理がつかないままワンマンショーに挑むことになった。

今回はプニキュア役が自分一人だけ。司会のお姉さんやスタッフがサポートしてくれるが普段のキャラクターショーよりも彼への負担は大きいし、なによりも観客からの注目度が高い。

それに加えていつもよりタイトで恥ずかしいレオタードの衣装。使い慣れた補正タイツも付けられず応急処置で用意した重ね着のタイツによる体型補正。彼はショーが始まる前から緊張と不安でのどがカラカラになっていた。


「今日はみんなのためになんとあのプニシルフィが来てくれました!じゃあみんな!大きな声で呼んでみよう!せ~の!プニシルフィー!」


司会のお姉さんの呼びかけに勢いよく元気に走っていくプニシルフィ。しかしその中には不安と恥ずかしさに耐えながらプニキュアを演じる彼が入っている。


一気に彼に視線が集まる。今日のショーを楽しみにしていた女児たちの憧れや期待にあふれた視線。ママさんたちの視線。そしてデパートの買い物客たちからの視線。プニキュアがステージに一人ということで余計に彼の存在が際立ってしまう。


はぁ…はぁ…始まってしまった。

頼むからあまり見ないでくれ!


心の中で恥ずかしさに悶絶する彼をよそにショーはスタートしてしまった。これから小一時間、彼はプニキュアを演じなければいけない。あくまで可愛い女の子として。


「それじゃあ初めはクイズ大会からいくよ~!お姉さんがクイズを出すからみんなは〇か×か当ててみてね!プニシルフィも準備はいいかな?」


可愛らしくうんうん!とうなずく。クイズ大会がスタートした。

クイズ大会の内容はお姉さんがプニキュアに関する簡単なクイズを出題し、参加する子供たちに〇か×の時に手を挙げてもらう。

プニキュアの彼の仕事は問題出題中に悩んだ振りをしたり、問題に関連するジェスチャーをしたりと比較的アドリブで動き回ることと、正解は発表の時に〇か×のジェスチャーをすることだ。もちろん彼はこの答えを全て暗記しているし、役作りのためにプニキュアを視聴しているので楽勝なのだ。


お姉さんが問題を出題する、彼が可愛らしい演技でステージ上を駆け回る。会場は大いに盛り上がっていた。

しかし着ぐるみの中の彼は問題が発生していた。

やはり着ぐるみの下にタイツを何枚も履いたせいでかなり動きにくい。周りの人から見て違和感はないだろうが、それは彼がいつものパフォーマンスを維持するために少し無理をしているからだった。加えて屋内特有の暖房による熱気がある。それにタイツの重ね履きのせいでかなり暑い。遠目から見ればわからないが、近くでよく見ると彼の肌タイツの脇の部分や首筋の部分は汗が染み出てきていた。


はぁ…はぁ…さすがに暑いぃ…

あと何分…続くんだ…


暑さで集中できていなかった。それがいけなかった。


「シルフィ?正解はどっち?〇?それとも×?」


司会のお姉さんが彼に問いかける。


え…しまった!問題を聞き逃した!

ど…どうしようわからない…


そう、彼はクイズを聞き逃してしまったのだ。彼はとっさの判断で考えたふりをし、頭に手をあててわからないポーズを取った。


「も~う!シルフィもわからないの?じゃあお姉さんが教えてあげるね!正解は…〇です!」


完全にやらかしてしまった。彼は慌てて手で〇を作り誤魔化したが、マスクの中では唇を噛みしめていた。


そんな彼に司会のお姉さんが小さな声で耳打ちした。

「大丈夫ですか?もしダメそうならショーを巻きますけど」

彼の体調を案じてくれている。しかし彼はそれに小さく首を横に振った。自分のせいでショーの内容を変えるのは見に来てくれた子供達にも失礼だし、プロのアクターとしての彼のプライドがそれを許さなかったからだ。それが例えプニキュアのアクターを望まず引き受けているからといっても。


「じゃあ変更なしでいきますね。本当にきつかったら合図を出してください」


彼は小さく手でOKサインを出し、これを期にもう一度集中しなおした。


クイズ大会も終わり、今度はプニキュアのダンスの振り付け練習会になった。お姉さんと一緒にプニキュアの彼がダンスの見本になる。もちろん日々のキャラクターショーの練習でダンスは完璧に踊れるため全く問題はない。だがそれがかえって裏目に出てしまった。

息をするように可愛く踊れてしまうため、かえって周りに意識がいってしまいお客さんたちの視線が気になり始めてしまった。

それに今日はいつもよりも恥ずかしいレオタードの衣装だ。

クイズ大会の時はいつものキャラクターショーと全く違うことをしていたため過度に緊張していたのだと思われる。一度緊張の糸が切れたら股間周りに違和感がないか気になりだし急に恥ずかしさがこみあげてきたのだ。


ど…どうしよう急に恥ずかしさで胸が…

ダメだ!集中しないと!集中…集中…


集中するとかえって体の感覚が冴えてしまいレオタードに体を締め付けられていると思ってしまう。余計に恥ずかしくなってきた。


くっ…どうして俺は今こんな恰好をして、女の子たちの前で踊ってるんだ

しかもこんなに可愛らしく、女の子みたいに

俺が目指してたのはヒーローだったのに…


色んな雑念が彼の頭の中に渦巻く。しかし周りから見たらそんな彼の気持ちは一切はわからず。アニメからそのまま出てきたようなプニキュアの可愛い女の子が躍っているようにしか見えなかった。


そんな彼にさらなるハプニングが起きた。なんとレオタードがお尻に食い込んできてしまうのだ。

激しいダンスの動きとサイズか少し小さいレオタード、そんな悪条件が重なってしまった。このままでは肌タイ越しとはいえお尻が丸見えになってしまう。それに股間にまで食い込んできてしまったらそれこそ男性器のふくらみが際立ってしまう。それだけは避けなければいけない。彼は不自然に見えない様に気を付けつつこれ以上レオタードが食い込んでこないように衣装を少しづつなおそうとする。

しかし手を肌タイで覆われている上、今回はその上に手袋をつけているため衣装がつかみにくく、細かい調整ができない。それにどこかに引っかかっているのか中々レオタードをなおせない。焦りでさらに彼の指先は自由に動かなくなる。


どうしよう…どうしよう…

どんどんレオタードが食い込んできて…


そんな異変に気が付いたのか司会のお姉さんが彼の後ろに回り一瞬の間にレオタードをピッ!と伸ばし衣装をなおしてくれた。

そして何事も無かったかのようにお姉さんはダンスの振り付けの練習に戻った。

彼は彼女に感謝すると同時に、もじもじと衣装をなおしていること知られてしまいマスクの中で顔を真っ赤にした。


ダンスレッスンが終ったころには彼はもう汗びっしょりになっていた。それもそのはず、彼はかれこれもう一時間近く着ぐるみに密閉されているからだ。

それにいつもより負担の多いショーの内容、レオタードのハプニング、重ね履きしているタイツが暑さに拍車をかけていた。


この後は子供達との撮影会に入る。もうひと踏ん張りだ!と彼は衣装をなおす。しかし肌タイの汗染みはもう隠しきれなくなっていた。特にひどいのが脇と首筋、汗で色が変わってしまっている。それは着ぐるみを着ている彼自身も自覚するほどだった。

しかもこんな汗まみれで可愛いプニキュアになっている姿を写真に撮られてしまう。くわえてレオタードの衣装。ショーの時と比べて動きが少ない分余、計にそのことを意識してしまい写真を撮られるたびに彼の羞恥心は上がっていった。

中には彼に抱きつこうとする子供もいる。不自然な動きにならない様に阻止しても勢いよく来られたら拒否できない。汗が子供達についたら可哀そうだし何より汗臭いと思われたくない。やんわりと子供を自分から引き離し頭をポンポンとなでてあげるのだった。


いろいろなハプニングはあったが何とか彼は今日のワンマンショーを乗り切った。

更衣室に入り着ぐるみを女性スタッフに脱がしてもらう。一気に彼の汗のにおいが部屋中に広がった。

彼はなんで女性スタッフが着替えの手伝いをするのか?汗のにおいがして恥ずかしい!と思ったがショーで疲れ切っていたこともありなにも言えなかった。


帰り際、彼は今回のスタッフやお姉さんに挨拶に回った。その度に「最初は男性だから不安だったけど全然そんなことなかった」や「男性なのに着ぐるみを着たらすごく可愛くて女性にしか見えなかった」とか「また一緒に仕事をしたい」とそろって口にした。

やはり男性なのに女の子の着ぐるみを演じていることへの驚きや、女の子の演技が完璧といった評価されることは彼にとって複雑だった。

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