第9話 記憶の喪失

「みずきさん、みずきさん。起きて下さい。

時間ですよ。」


ああ、眠ってしまってたんだ、私。

ここは、、、。

そうだった、ここは家じゃなかった、、。

忘れてた、、。


「はい、ごめんなさい、、。急に眠くなって、、。時間なのに、、。」


「大丈夫ですよ、さぁ、行きましょう。」

その人はそう言うと私と一緒に歩いてくれた。

廊下を曲がり、エレベーターで2階で降りる。

ある部屋のドアをノックした。


「春野みずきさんをお連れしました。」


「はーい、どうぞ。」

落ち着いた優しい声いつも変わらない。


私が中に入ると一緒に来た人は去って行った。


「どうですか?春野さん、気分は?」


「はい、、。

一緒に暮らしてたハウスの人達との事を

夢にみます。」


「そうですか。みずきさん、ハウスの人達とは夢でどんな話をしていますか?」


「また、ありさが私のカードを使って

買い物を沢山したんです。

もう、びっくりするくらい。

なおみにね、もう限界だから出て行ってもらいたいと話したんです。

そしたら、なおみが少しずつでも返すように言うからって、、。」


「そうですか。それは夢の話なんですね?

ところでね、ねぇ、春野さん、無断で外出しちゃったの覚えてますか?」


「えっ!私はそんな事はしません。

規則は守ってますよ、誰がそんな嘘を

言ったんですか?」


「あははは。そんなにムキにならないでね。

春野さんは真面目だからなぁ。

じゃあね、春野さん、質問ね。

ありささんが買った物って夢の中にあるのかな?」


「それが、、。おかしいんです。

私のベットの下に沢山のお店の紙袋があったんです。ありさが置いていったのでしょうか?」


「うーん。どうかな?

ありささんが会いに来られたなら、僕たちがわかりますよね。

ここは外部の人は許可がなければ入ることはできませんからね。」


「それって、、。わかりません、思い出したくない気持ちなんです。」


「じゃあ、話を変えましょうか?

春野さん、今日は子供の頃の話をしてくれませんか?」


「子供の頃ですか?

母はそうですね、みさとさんみたいな人でした。料理もお掃除も上手で、いつも私の世話を

やいてくれました。でも、父は、、。

うーーんと、父は、、。

父の事は思い出せないです。」


「そうですか。

僕が知っている春野さんの家庭の事なんですが

お話しても良いですか?」


「、、。

はい、言われてる意味がわかりませんけど

どうぞ。」


「春野さん、貴方のお父さんは、お酒を飲むと

人が変わってしまう方でした。

お母さんは、暴力を振るわれていて精神を病むようになられました。

そのせいで家事が出来なくてお父さんと離婚したんです。

貴方はお父さんと二人で暮らす事になったんですよ。

お父さんは貴方の面倒は見てくれませんでした。だから、貴方はいつもお腹が空いていて

お店の物を盗んでしまっていた。」


「ちょっと待ってください!!

そんなの全然違います。

私は、私は優しい両親に育てられたんです!!」


「では、なぜお婆様のところで暮らしてたんですか?」


「それは、祖母が歳をとって誰かが側にいなきゃならなくなって、、、。

、、、。

あれ?違う、、。そうじゃない、、。

そんなんじゃない、、。」


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