第10話 身代わり

頭が重い、思い出してはいけないのに。

それが出てくる、もうダメ、止められない。


私は思い出した。

そう、私の父は気難しい人だった。母はいつも

おどおどしていた。

お酒が入ると、母を殴ったり蹴ったりしてた。

母から父が暴れたら、逃げなさいと言われてたんだ。


母はそのうちご飯も作らなくなった。

洗濯も掃除もしなくなった。

ボサボサの汚れた姿で一日ぼんやりしているようになったんだ。

私はお風呂に入れなくなり、服も着替えが無くなった、、。

そんな事より食べる物が無くて、、。

あのお店でパンを盗んだ、、。

父はだらし無いと母をなじった。

狂ったように怒り、母への暴力や暴言は果てしなく続いた。

そう、ある日、お母さんいなくなったんだった。


それから、それから、それから、、、。

あああああーーーーーっ!!


「大丈夫ですか?春野さん!!」


「、、、。

私が代わりに話します。みずきには耐えられないからね。」


「貴方はなおみさんですか?」


「はい。私はずっとみずきを庇ってきたんです。

みずきはずっと自分を消したがってたから。」


「なおみさん、春野さんと知り合ったのは

いつですか?」


「あれは、お母さんがダメになった頃だから

小学生の、、。そう、四年くらいだと思うわ。

あの頃、みずきね、いじめられてたの。

そりぁ、汚くて臭いしね。忘れ物も多くなってたし。何より陰気だったから。

だから、私が友達になったの。」


「そうですか。

春野さんにとってたったひとりの理解者だったんですね。

他の人達はいつ集まったのですか?」


「最初にハウスに来たのはありさだった。

ありさはね、人の物をくすねるのがうまかったし。罪悪感ってもんが無いからね。

みずきはそういうの苦にするタイプだから。

ありさはみずきの代わりに、食べ物を盗んだのよ。

仕方ないじゃない?」


「ありささんはそういう役割だったんですね。

では他の人の役割も教えて頂けますか?

なおみさん。」


「そうね、貴方には話してもいいわ。

みさとさんはみずきのお母さんが居なくなった時からいるのよ。

みずきはね、毎晩泣いてたの。

だからね、私が連れてきたのよ。みずきはね

みさとさんに甘えることで乗り切っていこうとしてくれたわ。」


「なるほど。みさとさんはお母さんの代わりだったんですね。

では、つばさ君は?」


「つばさね。

つばさは、、、。

あ、つばさが話したいって。つばさと変わるわね。」


「僕、つばさです。

貴方に会いたかったんですよ。情報は貰ってたんですけどね。

ふーん、ただのおじさんなんだ。あははは。」


「いや〜。参ったなぁ。もっとイケメンとかって思ってましたか?申し訳ないね。

いいかな、話してもらっても。」


「うん、いいよ。

あれはね、みずきの母親が出て行ってね、

しばらくした頃さ。

あの野郎がみずきの寝ているところへやって来たんだ。

最初は酒臭い息で、からだを触ってきたんだ。

みずきは怖かったから固まってたよ。

でも、みずきも抵抗したよ。だけど殴られてさ。どうしようも無かったんだ。

ついにあの日、みずきは無理やりに女にされたんだ。

みずきには耐えられなかったんだ。

なおみが僕に頼みに来たのさ。

僕はね、みずきの代わりにアイツの相手をしてやったんだ。

因みにね、アイツはこの世にいないよ。

僕が始末したからね。」


「つばさ君、ありがとう。良く話してくれたね。つばさ君もつらかったでしょう?」


「これが僕の役目だからね。

いや、違うな。辛かったな、、。

だから、アイツをやったんだろう。」


「みずきさんのこれからについてどう思う?」


「そうだな。アイツは居なくなったから。

もう、僕の役目は終わったのかもしれない。

ここに来てから、みずきさ、変わってきたと思うんだ。

それって、貴方のお陰だよね。」


「君はそれでいいの?姿を消すことになるんだよ?」


「いいよ、もともと僕はみずきが生み出したんだからね。」





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