僕の彼女を寝取ったチャラ男と元カノが宇宙人に寄生されてからフレンドリーになった

すぽんじ

暗い記憶は明るい記憶に

 俺は山田やまだ裕也ゆうや


 高校2年の陰キャで、クラスに馴染めずに一人でいただけの普通の高校生。

 学校生活は普通に暮らしていて、来んな陰キャでも彼女がいたのが小さな自慢。


 何故「彼女がいた」と過去形なのか?

 その彼女は、隣のクラスのチャラ男に寝取られてしまったからだ。


 悪夢になったのは突然だった。

 特に何でもなく、彼女とのデートを控えて服や髪型とかを整えて準備をしていたある日、一通の封筒が俺の元に届けられた。


 その中にあったのは、一枚のDVD。

 後はわかる通り、中にはチャラ男と元カノのエッチをしてる映像が流れた。


 今でもその時の気分を覚えてる。

 吐き気に加えて、目眩、頭痛に高熱と続いて、学校を3日休まないといけないくらいに体調が悪くなってしまった。


 ついでに追い討ちをかけるようにチャラ男は元カノと一緒になって煽ってきたりしたせいで食事もろくに食べれなくなったりもしたりと、今でも最悪の思い出でしかなかった。




 ―――それが2ヶ月前の話。


 学校とか行くのが憂鬱になる日々が続いていたが、そんな最悪な思い出をかき消すような出来事が起きたからだ。


 それは――――


「うんまー! この星の食べ物って美味いものばかりだな!」


「特にこのピザにコーラって最高の組み合わせね! 地球の人間って生き物は」


 その2人は宇宙人に寄生されて人格が変わり、今は俺の家でピザを食べているからだ。


 こんな状況になったのは寝取られてから2週間が経ったある日だった。

 ちょうど両親がいないタイミングにやって来て、煽りに来たのかと怒りに任せて言い返そうとしたら第一声がこうだった。



「俺達は「パラサイ星」から来た宇宙人なんだが、この星の生活について教えてくれないか?」



 正直、何言ってんだコイツって思った。

 頭でもイカれてんのかって考え、また怒りが込み上がってくると、じゃあ宇宙人っぽい事してみろよ!…って荒々しく言った。

 そしたら突然腕が触手みたいにうにゃうにゃとさせたり、体を突然宇宙人みたいな見た目に変えたりして証拠をあっさりと見せてきた。


 あれはトラウマだった。

 怒りよりも恐怖が勝ってしまった俺の頭は何故か冷静になってしまい、一度家の中に入れて詳しい話を聞く事にさせた。


 ―――で、寝取ったチャラ男と元カノの中にいる宇宙人は、別の星の生き物の体の中に侵入して寄生し、その星で生きる【パラサイ星】という宇宙人で、地球にやって来て最初に見つけたこの2人に寄生。

 そこから記憶の中にいる俺の元に来て地球の生活を教えて欲しいとの事だった。


 まぁ、危害を加えないのなら別に良かった。

 ただ見た目が問題で、見る度に吐き気が襲ってくるもんだから理由を言って断る事にした。

 そしたら素直に帰ってしまい、申し訳なさが出てきつつも次の日、なんと見た目を変えてまたやって来たのだ。


 エロ同人に出てくるようなチャラついた見た目をしていたチャラ男こと“ヴィブラス”は、髪を金から黒に変え、服も今のイケてるファッションに変え、メガネもプラスにしてチャラさを完全にゼロにさせた。

 そんで俺の元カノこと“アネモラ”だが、前の見た目は清楚系だったが、こっちは逆にギャルに大変身。

 髪も金髪に変え、服もまたそれっぽいものにさせてかつての元カノの雰囲気をかき消した。


 あまりにも劇的ビフォーアフターな変身に言葉を失い、面影が全くなくなった2人は再度お願いをしてきて、俺はびっくりしつつもOKを出してしまった。


「それにしても急に来て悪かったね。

 この体の持ち主の記憶を見て何となくこの星の常識は覚えたけど、やっぱり分からない所が沢山あって…」


「あーうん、今日は親もいなかったし、宅配を頼もうとしてたからいいよ」


「本当に助かったよ。

 今度はこっちがどこか美味い飯屋に連れて行くよ」


 うーんこの善良。

 元の持ち主とは違って性格がいい宇宙人ひと過ぎて過去の記憶なんて忘れちゃいそうになっちゃう。

 というか気を抜くと宇宙人だって事を忘れちゃうくらいマジで優しい。


 まぁ最初はかなり大変だった。

 とにかく興味が湧いたものはなんでも知識として入れてしまう性格で、一番最初に知識を入れようとしたのがまさかのチャラ男の家にあったエロ知識満載のコレクション。

 これには俺も思わず待ったをかけてしまい、元カノの家にあったものだけを覚えてくれって叫んじまった。

 今は何とかこれは良い、これはダメってのを覚えてたから心配はなくなった。


 えっ、周りはどうなのかって?

 そこはまぁ、人類の知らない宇宙人の道具らしきもので洗脳させ、最初からこうでした〜的な記憶に書き換えちゃったからそこも問題はなかった。

 うん、俺はそれ以上は聞かなかった。

 なんか俺も洗脳されるかもしれなかったから。


「それでヴィブラス、この前貸したゲームは楽しかった?」


「面白かったぞ! 地球を滅ぼす宇宙人から守るゲームだったけど、なかなか楽しめた!

 昨日でエンディングまで行ったし、バイトで貯めたこの星の金でゲームでも買ってみるとするよ!」


「えっ、もう終わったの? まだ貸して3日しか経ってないはずだよね」


「そういえば、この前も貸したゲームを2日で終えたって言ってたわね。

 そんなに楽しいなら、私も何かやってみようかなぁ」


「あっ、だったら俺がやったこのゲームでも貸して―――」


「いや、アンタがやったゲームはいいわ。

 なんか不意にネタバレされてやる気が失う未来が見えるから」


「(´・ω・` )」


 アネモラに拒絶されてしょんぼりしたヴィブラスはいじけてしまい、落ち込みながら残ってるピザを食べ出した。


 なんだろう、かつての見た目のせいもあってか、立場が逆転すると違和感でしかない。

 まぁちょっとすればヴィブラスの機嫌も元に戻るだろうし、また貸せるゲームでも渡してやるか。


「……なんか、変わったなぁ」


「どうしたの?」


「前までチャラ男と元カノの顔をした2人を見るのが嫌だった日々が続いてたけどさ、こうして一緒にいるようになってからは毎日が楽しいなって思ったんだよ」


「前まではそんなに嫌だったの?」


「そりゃあ、俺から彼女を奪った男とその元カノだったんだ。

 会うだけでも気持ち悪くなったりしてたし、食事なんて食べても吐いたりする日が続いたりして生きてるのが辛いってのがずっとだったからな」


「確かにこの人間は人から奪って快感ってやつを楽しんでる記憶しかなかったな。

 俺達は性別もなければ群れる事もしない、ただ寄生してその星で生きるってのがパラサイ星の生涯だから、他人から奪う行為なんて理解ができなかった」


 機嫌が戻ったヴィブラスからしたら「奪う」と「寄生する」は意味が違っているらしい。

 俺からしたらどっちも似たような意味に思うけど、そこら辺は宇宙人として違ってるんだろうな。


 まぁでも、もし2人がこの星に来なかったら、俺はまだあの苦しい日々が続いてたし、今の光景も見る事がなかった。

 だとしたら2人には感謝しかない。

 元の肉体の持ち主には悪いけど、もう二度と俺の前に出て欲しくないって思ってしまっている。


「さて、ずっと家にいる訳にもいかないし、そろそろ帰ろうかな」


「だな。あっ、ゲームは明日返すから、また何か面白いのがあったら教えてくれよな」


「うん、分かった。

 今度のテスト対策の勉強も家に来ていいから、その時にまた別のゲームソフト貸すね」


 2人は食べたピザのゴミを片付けると、帰る支度して家を出て行った。

 そして1人になった俺は部屋に戻って、ベッドに寝っ転がるとスマホを開いた。


 そこに映るのは最近3人で一緒に撮った写真。

 こんなのは2ヶ月前の俺だったら信じられないし、何ならこれは夢じゃないのかって時々思ってしまう。

 でも寝たら次の日には夢じゃなかったってまた思い、楽しい思い出を作る。


「友達と遊ぶって、こんなに楽しかったんだな」


 前までだったら陰キャな性格のせいで会話なんて続かなかった。

 2人と話すようになってからは、俺から他人に話す機会なんてできるようになり、クラスでも馴染めるようになった。


 アネモラの体の持ち主である元カノと付き合ったのもただ偶然で、交通事故になりそうな場面を助けたのがきっかけだった。


 そこから会話をして、俺から告白。

 返事はOKで、そこから俺の人生に春が訪れて幸せいっぱいだった。


 突然それは終わったけど、また別の春が来て、俺はそれが終わりたくないって願ってしまってる。


「もしかしたら今の俺は、2人に寄生してるのかもなぁ……なんてな」


 変わった生活は夢のように心地いい。

 暗い記憶はなくなり、明るい記憶が増える。

 この夢が終わらないで欲しい。

 まだこの春がずっと続いて欲しい。

 早く明日が来ないかって思いながら、俺はまた夢を見る。

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