第12話 開戦

 レイバスクから距離は近い。援軍が来るなら、そう時間はかからない。けれどレイバスクの状況を考えれば、すぐにそれが来るとも限らない。


 かなり不味いかな。


 ポッケは、レーダーを睨んで歯噛みする。前方にはセントローレル。となれば、クラーク小隊も出てくるだろう。

 正面からやり合うのは得策ではない。後退しながら時間を稼いで援軍を待ち、運よく撤退できれば御の字だ。


 下手を打てば、壊滅も十分あり得る。


 ポッケはアミヌ、フォン両艦長に向かい、「時間を稼ぎながら後退。殿はコスモヘイローがつとめます」と言った。


「なら、俺たちが道を切り開きます。脚の速さなら、こっちに分がある。アミヌ艦長、援護を頼みます」


 モスナビィは旋回すると、後方に控えていた戦艦・不落山、重巡洋艦・ルックバックに向かい進行する。モスナビィには『狂犬』として名高いムラカミ小隊が乗艦しており、そのレイダー部隊が、道を切り開かんと動き出す。


「我々はモスナビィに続きます。ポッケ艦長、ご武運を」

「アミヌ艦長も」


 ロットルードも旋回し、モスナビィに続く。モスナビィに乗艦するルンルン小隊もそれを追いかけていく。

 相手にするのは、残り四隻。その中には、当然、ナッシュの駆るセントローレルも含まれる。


「スレイン大尉、お話はお聞きでしたよね?」

「聞いてたぞ」

「申し訳ありませんが、よろしくお願いします」


 それを聞き、スレインは豪快に笑った。その声が、静まり返ったブリッジによく響いた。


「おいおい、嬢ちゃん。お前さんはよ、俺らと違って、その年齢で大佐で艦長になれるような奴なんだろ? だったら、踏ん反り返って頭を使え。へいこらすんのが仕事じゃねぇだろ」


 その言葉に、ポッケはハッとした。


「お前さんの師匠、ダリア婆さんなら、『みんなのために死んでください』くらいのことは言いやがるぜ」


 懐かしい名前に、ポッケは笑う。


「それはなら、私はこう言います。みなさん、死なないでください。生きてコスモヘイローに帰還して、ぱぁっとパーティーでもやりましょう」


 と言った。それにブリッチから笑いが漏れた。スレイン小隊の面々も、ゲラゲラと楽しそうに笑っている。


「おい、リッツ。お前も聞いてたんだろ? そろそろ起きろ、戦の時間だ」


 スレインの言葉に、ハッチで発進準備をしいたリッツ・パルスフィア中尉が、「聞いてたよ」と力ない声で応えた。


「リッツ中尉、調子はどうです?」

「私ですか? それとも、レイティスですか?」

「どちらもです」

「私なら、芳しくはないですよ。体も重いし、咳も止まらないし」

「レイティスの方は?」

「まあ、元気なんじゃないですか。ブンブン、気合も入っているし」

「それなら、リッツ中尉もお願いします。終わったら、みんなでパーティーしましょうね。ケーキにターキー、シャンパンなんかも開けちゃって」

「まるでクリスマスだ」


 リッツは珍しく笑いを漏らすと、アカリに向かい、「リッツ小隊、いつでも出撃できます」と言った。


「了解しました。リッツ小隊、発進どうぞ」


 アカリが言うと、ハッチにある表示板が、赤から緑に切り替わる。


「リッツ・パルスフィア、出ます」


 リッツの駆るレイティスが、コスモヘイローから飛び出していく。その後に、『烏合の衆』ことリッツ小隊の面々が続く。

 レーダーを見れば、そろそろムラカミ小隊が敵機と衝突する距離にいる。ポッケは両手を組むと、「両舷後進微速」と命じた。




 





 


 

 


 


 

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