第13話 終わりの始まり

 スレイン小隊とリッツ小隊が戦闘に突入した。宇宙の闇に、花火のようにビームの光が弾け飛ぶ。


「チェインブロス、こちらに接近」


 駆逐艦・チェインブロスが、コスモヘイローの射程圏内に迫る。やはり駆逐艦だけあって、コスモヘイローよりも小回りが利く。また駆逐艦ながらに高火力を誇り、相手の得意レンジでは新型艦といえども分が悪い。


「デブリ帯に注意。アヴェイン発射」


 ポッケの号令で誘導ミサイル・アヴェインGT‐9が、コスモヘイローの両舷下腹部から発射された。けれどチェインブロスは旋回しながら、持ち前の機動力でそれらを上手く回避する。


 どう出る、リスナビィー艦長。


 チェインブロスは艦首をコスモヘイローに向けると、その左の側面目掛けて速度を上げた。それに先行するように、敵機レイダーも数機、コスモヘイローに向かうのが確認できた。


「リッツ小隊、コスモヘイローの援護に回ります」

 

 リッツ小隊のレイティスが、向きを変えて迎撃に動き出す。


「タリントス、射程圏に入ります」


 コスモヘイロー右前方から、重巡・タリントスが距離を詰め始める。左方からチェインブロス、右方からタリントスに挟み込まれる格好となったコスモヘイロー。戦況不利は誰の目にも明らかだった。

 後方に控えるセントローレルとノーチェ・リッド両戦艦に動きはない。それがポッケには不気味に思えた。

 けれど、そればかりを気にしてはいられない。ポッケはコスモヘイローの進行速度を更に上げて、チェインブロスの左方に回り込むよう指示を出す。それと同時に発射されたアヴェインに、チェインブロスの速度が鈍る。


「スレイン小隊、リッツ小隊、サリノヴァイラスを発射します。ご注意を」


 今度はコスモヘイローが、チェインブロスの左方を捉える。チェインブロスはアヴェインを回避、迎撃しながら速度を戻して直進する。


 足が速い。でもそれが……


 コスモヘイローの左舷、右舷にある大口径電子砲・サリノヴァイラスの砲門が、チェインブロスの少し先を向く。


「サリノヴァイラス、撃て!」


 砲門から放たれたビームが、チェインブロスに向かい飛んでいく。まさに瞬間の出来事だった。けれどそれはチェインブロスの上をかすめて、宇宙の闇へと消えていった。


 操舵士もいい。ま、いい牽制にはなったでしょ。


 ポッケの思惑通り、チェインブロスはコスモヘイローから一定の距離を取ると、相手の出方をうかがっているかのような動きに変わる。


 まだ動かないのね、ナッシュ艦長、リーフェン艦長。援軍を待っているわけでもないでしょう?


 ナッシュ、リーフェンは、軍人ならば誰もが知っているような名将であり、ポッケとは比べ物にならいほどの修羅場を潜り抜けてきた。いくら天賦の才があると言われるポッケであっても、そこから来る、とポッケ自身も思っていた。

 ポッケの脳裏に、元艦長、ヒロミ・ナンバ中佐の姿が浮かぶ。いつも軽口を叩きながら飄々と戦場を駆けまわり、それでいて分析力や判断力には目を見張るものがあった。何よりここぞという時の胆力は随一で、それによって道が切り開かれるところをポッケは何度か目にしてきた。


 この状況、あなたならどうします?


 チェインブロスが動き、誘導をミサイルを発射した。コスモヘイローは回避行動を取りながら、副砲と対空機銃でそれらを撃ち落としていく。それを見て、タリントスの主砲が動く。


「タリントス、攻撃来ます」

「両舷前進二速。回避後、アヴェイン発射用意。目標、チェインブロス」


 両者過度な動きはせずに、つばぜり合いのような時間が続く。するとモスナビィのフォンより通信が入る。


「こちらモスナビィ。ルックバック後退。艦船トラブルかもしれません」

「モスナビィ、ロッドルートの状況はどうです?」

「ウチは問題なしです。見た感じ、ロッドルートも元気そうです」

「不落山は?」

「固いですよ。ほんと要塞。大層な名前も伊達じゃない」


 レーダーを見れば、ルックバックが後退していくのが分かる。すると今度はアミヌから通信が入り、


「不落山も後退していきます」


 と伝えられた。そして同じくコスモヘイローが対峙するタリントス、チェインブロスも後退していく。

 その時、コスモヘイローブリッジに、連合艦隊所属の戦艦・夜光やこう田中幸丸たなかゆきまる艦長より応援の報せが入った。


「応援感謝します」


 そう言うと、ポッケはシートに深く身を沈めた。そこでようやく、レイバスクでの惨状が分かってきた。

 宙域連合内も一筋縄でないことは、自分たちがここに派遣されたことや、ナッシュたちの手早い後退からも明らかだった。


 これから、大変なことになりそうだ。


 ポッケは副艦長のチッチ・ユーステリアに指示を出し、軽く目を閉じた。自分たちの行く末に思いを巡らせながら。

 

 

 


 

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