勘違いも甚だしぃ 2/4



 散歩がてら出掛けたさっき同様、静かにドアを開けて帰宅した。

 まだベッドの上でぐっすり寝てるであろうルイを起こしたくないから出来るだけ音も立てない様に気を遣い思うことが在る。

 どっちがご主人様なのかと。

 冗談半分、自虐半分と云った取り留めも無く、何となく頭の中に過ぎっただけの戯言なのだが。


 丸くなって気持ち良さげに眠るルイを視るだけで、癒されほっこりするのだから不思議なもの。

 スマホのカメラで撮ったりするとシャッター音で気付かれてしまい『寝顔は撮らないでよ』とでも云う様に隠れてしまったりするから邪魔をしたく無いし、家事も片づけてしまいたいので今朝は眺めるだけに留める。

 そっと様子を窺い簡単な家事から始める事にした。


 部屋を歩くと多少なりとも足音がするから、こんな時はにゃんこの無音で忍び寄れる肉球付きの足が羨ましくなってしまう。

 でも自分の手足に肉球が在ったら普段の生活では凄く不便なのだろう。

 それこそ文字通り『猫の手』になってしまい、役立たずの代名詞が私の名前に付きかねないから全力で遠慮したい。

 こんな馬鹿な事を考えながら苦笑交じりに家事をしてる。


 週末の朝は休日にしてる人の絶対数が多い為か、街全体が静かでどこか弛緩した空気が漂っている。

 時間さえもゆっくり流れてる気がして来るから、普段なら考えもしない様な事が過ぎるのだろうか?

 洗濯機のアラームが鳴りランドリーバケットに濡れた衣服を移す。

 当然ながら洗濯が終われば干さなければならなく、部屋を横切る際に視線をルイに向けつつ窓を開けベランダに出る。

 どれだけ気を遣ってもやはり家事は完全に無音でこなせない。

 水を使う事も多いから、水道の音や洗濯機の終了アラームが鳴ったり、足音なんかで少し騒がしくしてしまう。

 ぬくぬくしてるルイには心苦しいけどこればかりは仕方ない。


 時々、視線を向けると耳が小さく動いたり、様子を探るように鼻をヒクつかせたりしてるから半分くらい起きてるのかも知れない。

 狸ならぬ『にゃんこ寝入り』とでも云うのだろうか?

 そしてふっと想う。

 昔の。そう、子供の頃に見た長閑のどかな光景が頭に過ぎる。

『これじゃまるでトタン屋根の上で寝てる猫だな』と。

 ベッドで暢気のんきに眠るルイは、きっと至福なのだろう。



 

 はっ!

 状況の把握と整理つもりがお昼寝にどねの続きになって、三度寝になってしまったじゃにゃい。

 どうしてくれるのよぉ。もう。

 えぇっとぉ……にゃんだったかしら?

 さっきからうるさくしてる気配の犯人はご主人だったのよね。

 たまにお昼でも居る事が在るから、今日がそういう日だったのかにゃ?

 とすると、あたちのテリトリーに入って来た珍入者は居ないと云う事になるけど、それならそれで問題ないでしょ。


 もう猫騒がせも甚だしく、全く以て腹立たしいわ。

 今日はお昼でもお家に居るなら、その事を昨日の内に云うべきじゃない? 

 あたちにも予定ってものが在るのだから、これは厳重注意のイエローカードを出して反省させてあげるわっ!


 まぁ、居るのがご主人なら何の警戒も遠慮もしなくて良いから、このままお昼寝を続けても問題ないのだけど、バタバタと動き回るから落ち着けないのよね。

 それに眼が覚めちゃったし、少し遊んであげようかしら?

 まだアタマがスッキリしなくて靄が掛かってる感じだから、取り敢えず伸びでもしてみましょ。


 最初はいつも通り前脚を伸ばし、肩と肘の関節から始めて指先までピンってすると、一緒に背中もストレッチ出来て気持ち好いけど、つられて欠伸も出ちゃうのは情景反射みたいなもの。

 そして伸ばした侭の前脚に重心を移しながら後脚を片方ずつぷるぷるすれば、全身のストレッチが出来てあたち自慢の俊敏な動きに磨きが掛かるわ。


 準備万端となった所でご主人を見ると、忙しなく動き回って何かしてる。

 ちょっと気になるから近付いて「にゃにしてるの?」って足をトントンして聞いてみようかな?

 でもこのパターンは前にやってみた時に何か嫌な事が起こった様な? 起こらなかった様な? そんな感じの漠然とした一抹の不安が在るのよね。

 それが何だったか思い出せれば、自ずと対処する方法も浮かんで来て、そんなに嫌な事にはならない筈。


 だけど違うパターンならどうしようも無くて考えるのは無駄だし、出たとこ勝負で臨機応変に対応するのが手っ取り早く、面倒も無いのは確かだけど……

 やっぱり安全策を取って少し離れたセーフティゾーンから様子を見てみるのが無難なのかも知れない。

 緩衝地帯さえキープしてれば、もしもの時でも素早くサッと身を隠せるのだから敢えて火中の栗を拾う事もにゃいわ。


 う~ん。でも気になるし……

 あるじを突いて蛇を出す危険を孕んでるから、安全策の方が『神、そらに知ろしめす。すべて世は事も無し』を意図しないけど実行する事になって、あたちにしてみれば好都合なのかしら?


 ちょっと首を傾げながら考えてると視線を感じてそっちに意識を向けると、ご主人が笑いを堪える様にして視てるわ。

 にゃによっ! あたちの様な可憐なレディを視て笑うなんて失礼過ぎるでしょっ。

 そんなのジェントルじゃないんだからねっ!

 もう少しマナーのお勉強されたら如何なもの?

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