陽だまりのにゃんこ ~勘違いも甚だしぃ~

七兎参ゆき

勘違いも甚だしぃ 1/4


 にゃんか煩いわねぇ……

 せっかく気持ち良くお昼寝してるのに台無しじゃにゃい。

 周りで何かゴソゴソしてて落ち着かないのよ。

 もしかして不審者が居るとか?

 あたちのテリトリーに入って来るなんて大胆にも程が在るでしょ!

 

 まだ眠いけど、片目だけ開けて何が起こってるのか確かめようかしら?

 だって珍入者だったら大変じゃにゃいっ。

 ここはあたちの場所だってアピらないで居座られちゃったら、それはもう凄く厄介な事になるんだから。


 でも、最悪な事態を想定して出来るだけ相手を刺激しない様に……

 それと余裕と貫禄を見せつける意味でも、細心の注意を払いながらゆっくりな動作じゃないと駄目ね。

 ファーストコンタクトであたちが優勢になれる様に、何気ないモーションから突然、相手の眼を睨みつけて怯んだ隙にマウントを取るのは必勝法なのだから。

 先ずは状況を把握する為に五感を駆使して情報収集からだわ。


 そうねぇ……

 匂いは普段と変わらないからいつも通りね。

 次に動き回る気配は馴染みが在って不快じゃにゃいけど、何となくよそよそしい気がするわ。

 あたちの存在を普通に認識していて、それでも敢えてって感じに距離を置いてるみたいな不自然さも在るから……


 これって? もしかして?

 ううん。そんな筈にゃいわよね。

 こんな風にするのってご主人くらいだけど、お昼寝にどね前にちゃんと目覚まししてあげたから、もうお出掛けしてるに決まってるもの。

 昨日は夜更かししちゃって、お眠だったからお見送りはしてあげなかったけど、いつもの様にドアが開いて閉まる音がしたのは間違いにゃいわ。


 本当はぽかぽかして気持ち好いから面倒なのだけど、確認しないと安心してお昼寝の続きも出来ないのよね。

 やっぱりここはひとつ、眼を開けてこれまでの情報と総合して気配の正体を暴いてやるわ。

 でも瞼は鉛みたいに重いから開けるのは片目だけにゃんだけどっ。


 意を決して眼を開けるとお陽さまの陽射しが直接飛び込んで来て、真っ白で何も見えなくなったの。

 でも、反射的に瞼を閉じてしまったら、間違い無くお昼寝の続きをしてしまうから我慢よ。


 次第に回復してきたあたちの視界にはご主人が居るけど……

 あれ? にゃんで?

 もしかして、夢を見ていた?

 あたちとした事が夜までお昼寝しちゃったのかしら?

 んにゃ。そんな事はにゃいわ。

 眼を開けた瞬間に眩しかったからお外が暗い筈にゃいっ。

 にゃんこ界で随一の明晰な頭脳を以ってしてもパニクってしまうじゃにゃい。

 

 こんな事じゃいけにゃいわ。

 冷静に状況を整理しなければ!

 例えご主人でも、ここで慌ててるのを悟られるのは得策じゃにゃい。

 何にも無かったって感じに寝てる振りして、時間を稼ぐ作戦に変更するのが賢い選択ってものよね。

 だから。

 おやすみぃぃぃ。

 ぐぅぅぅぅぅ……zzz

 


 冷んやりした柔らかい感触が頬の辺りを刺激する。

 それは『ぴたっぴたっ』と少し乱れたテンポで、触る様に叩く様に……

 そのどちらとも云えるものなのだ。

 

 私はこの感触は知ってる。

 いや、良く知っていて馴染み深く、そして心地良い。

 とは云え、寝惚けた思考が覚醒するまではそれが何で在るか認識はしてないけど。


 ゆっくりと認識が戻って来る過程で、自然に顔が綻び、優しい気持ちに満たされて眼が覚めて行く。

 何てことは無いけど、毎朝エンカウントするイベントと云って良い。

 日課となってる、ルイの肉球スタンプ目覚ましアラームは、至福のひと時を演出してくれる。


「おはよう。ルイ」

 と話し掛けながら頭を撫でてあげると、仕上げとばかり小さな舌で『ぺろっ』ってしてくれる。

 でも、にゃんこの舌はザラザラしていて、軽くヤスリで擦られた様な感触なのが玉に瑕だけど、可愛らしいから全然アリなのだ。

 この日課が終わると『遊んでぇ』って強請って来たり、ベッドから飛び降りて毛繕いを始めたり、布団に潜り込んで丸くなったりとバリエーションが豊富で、ルイの気分次第で毎日違う。


 今朝は陽射しが差し込むベッド上で丸くなると、気持ち好さげに居眠りを始めたルイに『二度寝かっ!』とツッコミたくなるのを飲み込み、静かにベッドから降りる。

 土曜日の朝はもう少し寝ていたいのだけど、にゃんこのルイに曜日感覚なんて望むべくも無い。

 規則的に朝になるとイベントは発生し、会社に行かない休日でもせっかく起こしてくれたのだからと、洗面と歯磨きを済ませて平日にやらない家事などをする。


 今日はゴミ出しする日なので部屋をぐるりと見回し、捨てるものを分別してる各種の袋に放り込み口を縛ると、玄関のドアをなるべく静かに開閉して集積場へ持って行く。

 外に出たついでに散歩を兼ねて、休日しか行くことが無い少し離れたコンビニまで足を延ばすと、ペットボトルの飲み物を購入し来た道とは違う経路で帰路に着く。


 遠回りになるけど主目的は買い物ではなく散歩の方だから構わない。

 特に天気の良いは気分転換になるし、歩く事で身体もほぐれ心なしか軽くなるから一石二鳥、いや三鳥くらい得をした感じなのだ。

 家に戻ったら午前中に洗濯や掃除などを済ませてしまい、午後はのんびり時間を過ごそうと軽く計画を立てる。


 掃除と云えば、ルイは掃除機のモーター音を怖がるので、今朝の様に寝てる時は後回しにしてしまう。

 自分自身でも掃除機は苦手と解かってるから、私がコンセントにプラグを差し込むだけで一番離れた物陰に隠れてしまう。

 でも、動くものに反応してしまう好奇心には勝てなくジッと覗き込み、相反する音の怖さとウズウズする衝動の挟間で葛藤しているから、何とも可愛らしい。

 掃除が終わるまでずっと、隠れたで出てこない時や、逆に動く先端部のブラシに攻撃アタックする時も在り、こんな風に自由奔放なのも『猫は気侭』と云われる所以ゆえんなのだろう。



   ――――――――――――――――――――――――――――――

 ご覧戴きましてありがとう御座います。

 四分割の一話目は如何でしたでしょうか?

 可愛らしくルイが活躍するエピソードをどうぞ最後までご堪能下さい。

(本日より四日間、毎日更新致します)

 少しでも面白いと感じて戴けましたら、

 拙作「十彩の音を聴いてーPower Switchー」も併せて作品フォローや評価等をポチって下さると励みになります。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る