第15話

「おっらああああ!!」

 

「なっ!?」


 誠二が男の頭部を狙いシャベルを打ち下ろす。


「ぐあああぁっ!?」


 ガードに入った男の左腕が完全に破壊される。誠二はそうなる事を予測して本気で武器を振り下ろしていたのだ。


(先手必勝。こういう場面だと守りに入ったら負けなんだよ)


 痛みで悶絶していた男の背中を蹴り飛ばし男を窓際へと追い込む。


「よ…よせ!!おまえ本気か!?この人殺しが!!」


「寝言は布団の上で言ってくれよ…なっ!!」


 誠二がシャベルをゴルフクラブのようにスイングさせ男を窓からマンションの外へと叩き落とす。


「あぎゃあああああ!?」


 パキッ!という足の骨が砕ける音が響く。男は地獄のような痛みに悶絶し絶叫を上げていた。


「てめえええええ!!絶対許さねえ!!絶対に殺す!!」


「……」


 その姿を冷たい瞳で見ていた誠二。そしてゆっくりと人差し指を口元に近づけ男にジェスチャーを送る。


「死にたくなかったら静かにしてたほうが…て、ああ。もう遅いか」


「はあっ!?」


「周りをよく見て見ろよ。ほら。お迎えが来たぞ」


 男は慌てて周囲を見回す。周囲には男の絶叫を聞きつけた動く死体がゾロゾロと集まり始めていた。


「ひいっ!?や、やめろおおおお!!来るなああああああああああ」


 生きのいい獲物に群がるかのように、ゾンビの大群が男に覆いかぶさる。


「やめ…やめてええええええああああ!?助けてええええええええええ!!」


「……」


(うっわあああ…グロいな)


 体中の肉は引きちぎられ、腹部から顕わになったピンク色の臓物がソーセージのようにクチャクチャと啜られる。


「ひゃあああああああ!?」


 新たに合流した2体のゾンビが男の眼球を取り出し咀嚼を始める。男は生きながらゾンビに食べられていた。そしてこの世のものとは思えない痛みの中で男は絶命する。

 

「…戻るか」


 男の死を確認した誠二が窓から体を起こした。


 20××年4月4日 13時00分


「家主は死んだし…使えそうなものは全部貰っていくか…て、なんだこの部屋は?」


 冷静になった誠二が部屋のその光景に驚く。男の部屋は異常な状態だったのだ。壁一面に大小様々な形のナイフが飾られており、男や女の姿が映った写真がズタズタの状態で引き裂かれていた。


(あいつヤバイやつだったのかもな…)


 部屋を注意深く見て回り、使えそうな刃物や小道具を回収していく誠二。立派な窃盗行為だがそれを咎めるような法律はすでに機能していない。


(そうさ。ライブの男が言っていたことは正しい。今の日本は無法地帯だ)


「殺らなきゃ…殺られちまうんだよ」


 目ぼしい道具を回収した誠二が寝室へと足を踏み入れる。


「あれは…ガンロッカーか?」


 安物の鍵で施錠された細長いロッカーに誠二が目を付ける。


「このタイプの鍵なら…工具を使えばいけるな」


 誠二が回収した道具を抱えながら一旦室内から外に出る。するとそこには不安そうな表情の少女がドアから顔を出していた。


「…何があったの?」


「あぁ?…えっと…だな……」


 大量の血痕を付着させた誠二が少しだけ返答に悩む。


「105号室のアホは引っ越しした。遠いところにな」


「……」


 誠二のオブラートに包んだ表現の意味を少女は理解していた。


「…分かった。…手助けが必要ならいつでも言ってほしい」


「必要ない。それよりも死にたくなかったらしっかり施錠しておけ。さっきの騒動でゾンビが集まって来てる」


「…了解」

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