第9話
「…久々にテレビでも見るか」
誠二が埃を被ったリモコンを手に取りテレビの電源を入れる。どのチャンネルからもニュースキャスターの緊迫した声が聞こえていた。
「世界各地で暴動が起きています!」
「謎の感染症が流行中!」
「学校で大量殺人が発生!」
「不要不急の外出をしないよう注意してください!」
平和なチャンネルなど1つもない。その事は薄々誠二自身も理解はしていた。
「…あっちゃ~」
「やっぱこれ、世界規模で起こってるのか……」
ぼんやりと誠二がテレビ画面を見ていると、リポーターが無警戒にも血まみれの人間に近づくシーンが映されていた。
「すみません!大丈夫ですか!?」
「おああああああ…」
「え…?ちょ、ぎゃあああああああああああ!?」
リポーターの指が食い千切られた時点で映像は緊急停止。何が起こっているのか理解できないという顔をした司会者がおろおろと狼狽えていた。
「人間ってのは、いつも自分だけは安全だと臆面もなく考えてるよな」
一連の場面で如何に日本が平和ボケしている国かが誠二にはよく理解できた。早い話が足りていないのだ。危機感が。
「さて、どうするかな……」
誠二が今後の行動方針を考えていると、突然背後の大窓から物音が聞こえた。
「…!?」
誠二が慌てて鉈を手に取り窓から距離を取る。
(…何だ?)
ドンドンと定期的に窓を叩く音が室内に響く。
(ゾンビって感じじゃない。人間か…?)
「……」
叩く音は止まらない。仕方がなく誠二が行動を起こす。警戒しながらゆっくりと窓へと近づきカーテンを開けた。
「…ばあっ」
「……はぁ?」
窓の外。そこには意味不明なポーズを取る少女の姿があった。
「…え?お前…何やってんの?」
誠二が至極当然の疑問を隣人の少女へと伝える。
「…男の人はこうすると喜ぶって聞いた」
(何言ってんだこのバカは…?)
「俺が猟銃かなんか持ってて、お前をゾンビと勘違いしてノータイムでぶっ放してたらどうするつもりだったんだ?」
「…そのときはそのとき」
(イカレてやがるな…)
誠二が少女を狂人を見る目で見つめる。そんな最中でも少女はマイペースに言葉を続けた。
「…お願いがある。…晩飯を分けて欲しい」
「その辺のコンビニに行けばいいだろ?今なら食べ放題だと思うぞ。そんじゃな…」
誠二がカーテンを閉めようとする。するとグイッ!と少女は顔面を窓ガラスに近づけた。
「…コンビニは怖い人たちが占拠してた」
「ほう…?」
少女の口から語られた情報に誠二の手がピタリと止まる。
「…お金は無いけど、今日私が見聞きした情報を伝える。これが対価」
「……」
(…まあ、無料で寄越せとか言わないだけマシか)
誠二としても周辺の情報に関しては耳に入れておきたいというのが本音だ。
「いいだろう。…というかベランダに侵入してくるのは金輪際止めろ。マジで心臓に悪いから」
「…分かった」
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