第5話
20××年4月1日 11時30分
「…急がないとな」
(まさかスーパーで襲われるとはな。予想よりも早過ぎる)
略奪行為自体は誠二も考えてはいた。結局のところギリギリの理性がその行いにストップをかけただけだ。あの不審者と誠二に然程の違いはない。そこにあるのは成功したか否かだけなのだ。
「…人間にも注意しないと」
自宅を目指し誠二はバイクを加速させた。
20××年4月1日 12時00分
「ふう…」
自宅に到着した誠二がほっと息を洩らす。
「ゾンビ共は……いないな」
誠二が周囲を警戒しつつ階段を上る。コツコツという乾いた足音が静かに周囲に反響する。
「……ん?」
誠二が住む部屋の隣のドアの前で誰かが蹲っているのが見えたのだ。
(あのガキは…間違いない。隣に住んでる中学生だ)
(頻繁に怒鳴り声が俺の部屋まで聞こえてきて迷惑してたんだよ。関わり合いになりたくねえな……)
誠二がその姿をスルーして通り過ぎようとする。すると突然少女に足を掴まれたのだ。
「……ああ?」
「…助けて」
(めんどくせえええええええええええ!!)
これだ。この展開になるのが彼は嫌だったのだ。
(他人になんて構ってられるかよ。自分の事で手一杯だっての…に……)
何気なく見たその少女の目。その絶望に染まった瞳が誠二の足を引き留める。
(……いやいや、何考えてんだ俺?ほら、スルーしてさっさと行こうぜ?)
「……」
「……んぐっ…ひっぐ…」
「…クソが……」
誠二が掴まれた手を振り払い少女と正面から向き合う。
「おい…よく聞けよ」
「ひっ…」
誠二は視線を逸らす事無く言葉を伝える。
「泣いても何も解決しねえぞ。むしろ事態を悪化させるだけだ」
「…え」
「俺に何か用があるなら要件だけ言え。「お前」は「何を」して欲しいんだ?」
「…えっと……」
誠二が早くしろと視線で伝える。少女は必死に考えた。そして考え抜いた結果、自分が本当はどうしたいのかをそのまま誠二に伝える事を決めた。
「___…父さんと母さんが突然おかしくなった」
「___…だから、他の人に迷惑をかける前に殺したい」
「ほう…」
その返答に誠二は感心していた。耳を澄ませると、確かにその部屋からは2体のゾンビの唸り声が聞こえる。少女の言葉はほぼほぼ本心だと誠二は確信していた。
(まあ、遅かれ早かれというやつか。ここでこいつに恩を売っておくのも悪くはない)
「…いいぜ。ちょっと待ってろ」
「…?」
誠二は自分の部屋に戻ると2分程で少女の前へと戻ってくる。
「持て」
「……」
誠二が少女にバールを手渡し再び視線を合わせる。
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