第13話

ちょうどいい暇つぶしになるだろうし、気になってるみたいだからなと手渡された「コードのない」コントローラーをおっかなびっくり操作し、始まったゲームのオープニングで画像の美しさに仰天し。

最初のイベントで主人公が声を出して喋ったところで固まり、先輩に促されてようやく我に返り。





「なななんかヌルヌル動くううう!!」

「ほんとにお前のゲーム歴はどんだけ昔で止まってるんだよ……」




ものすごい勢いで笑われた。





ココアはすっかり冷めてしまっていたけど、それでも美味しかったので飲み切って。


何だかんだとアドバイスを受けつつ、最近のゲームの操作性の良さに感心したりしているうちに、気が付けば食堂が開く時間はとっくに過ぎていた。




「はぁぁ……ものすごいカルチャーショックを味わいました……」

「いやー、笑わせてもらったぜ。今どき見られない反応だしなぁ。さて、いい時間になったし、とりあえず飯食いに行くか」

「あ、はい……」




そうだ、楽しくて忘れちゃってたけど、そもそも時間を潰すために始めたんだ。


食堂が開くのを待つ間。

それだけなんだ……食堂へ行って、一緒に晩ごはんを食べたら ──── お別れ。





この人を好きだと気付いてしまった今、気持ちは加速度的に深まっていて……もっと一緒にいたいと思ってしまうけど。



……だめだめ、少し優しくされたからってベッタリなんて迷惑だよ。せめて嫌われないように、これ以上わがまま言わないで大人しくお礼を言って片付けるべきよね。




私は落ち込んだことに気付かれないように下を向いて、ゲーム機の電源に手をかけ


「──── おい!」


がっし、と伸ばした手を掴まれた。

すぐ側に先輩がいて、驚いたような顔で私を見ている。



「セーブしてないだろ」

「……へ?」

「今消したらまた最初からやり直しだぞ。飯食って戻ってくる間くらいなら、そのままにしとけよ」



さも当然、という様子で。

ここへ戻ってくるのだろうと。戻ってきて続きをするんだろうと言われて、全身がブワッと一気に総毛立つ。




どうしよう、嬉しい。

嬉しすぎて顔がヘンになりそう。

ご飯の後も一緒にいていいんだ。そのつもりでいてくれたんだ。幸せでどうにかなりそう。



もよもよと口元が笑いそうになるのを堪えていると、先輩に顔をのぞき込まれた。



「何つう顔してんだお前……続き気になるんだろ? 強がってねーでそういう時は後で続きやらせろって言っていいんだよ。全く、変なとこで遠慮深いんだな」



それが理由じゃないんですけど、とは言えないので、そういうことにしておいてもらおうと私は笑った。






寮の食堂もシステムは学校と同じらしく、さしたる混乱もなく、それぞれに定食を頂き、混んできたので早々に出る。


食べている間ずっと私がニコニコしていたせいか、食堂中の視線を集めていた気がしないでもないけど、先輩が時折まわりに目をやってくれていたようだった。



時計を見れば19時過ぎ。


「ちょうどいいな。お前、このまま一旦部屋に戻って大浴場行ってきな。遅くなると混むぞ」


エレベーターホールで先輩に言われ、わかりましたと頷きエレベータに乗る。

3階でドアが開き、降りた先輩が振り向いて




「それからな」

「はいっ!?」

「今度は、ためらわずにチャイム押せ」


ニッと笑う。




顔が赤くなるのがわかった。


さっき先輩がチャイムを鳴らす前に出てきたのは……インターホンのモニター機能で私がウロウロ、すはすはやってるのを見てたんだろう。

だからこそあの苦笑いか……恥ずかしい。














大浴場はこれまた、スパですかと言わんばかりの設備が揃っていた。


サウナはもちろんスチームサウナやジャグジー、有料ではあるがマッサージまである。


そう言えばうちの高校はスポーツではかなりの成績を残す強豪らしい。トレーニングルームもあるし、なるほどそこら辺はかなり力が入っているようだ。




かなり快適で浮かれていたのだが、同級生に見つかってしまったのが運の尽きだった。



またもや私は連れ去られたことになっていたらしく、心配してくれるのは有難いのだが私がヤクザに売られるんじゃないかとか恐ろしい話まで出る始末で、収拾がつかない状況になりかけたところでのぼせたからとやや強引に話を切って逃げ出したのだった。




脱衣所の時計を見れば20時を回っている。


慌てて部屋へ戻り、ダンボール箱をひっくり返す勢いでパジャマを探す……が。

愛用のパジャマが見当たらない。



「洗濯しちゃってるのかな」



ならば代わりのパジャマはと中身を全部広げて、私は唖然とした。




「何コレ……」




スケスケでヒラヒラのネグリジェ。

パジャマと呼べそうなものはそれしか見当たらなくて。



「こんなの持ってなかったはず……おばーちゃんのか! もう、ああ見えて服のセンスは妙にキワドイんだから……!」




こんなの着て先輩のとこ行けないよ……というか外にも出られない。

仕方なく、紺のキャミソールの上にカーディガンを羽織って、下はさっきのスカートのまま。


20時半を回ったのを確認して、大慌てで部屋を飛び出した。

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