Hopeless Hopelessness

@Shoji_Makino

もし一つだけ願いが叶うのなら

「もし一つだけ願いが叶うなら何を頼む?」

「そりゃ、金とか長寿とか病気や怪我しない体だろ、俺もお前も嫁も子どもいないからな」

「俺も以前はそう思っていたんだよ、でも考えてみたのよ」

「ほう、どんなことを?」


「例えば世界一の金持ちになるだろ?」

「うん」

「その世界一の金持ちである状態が幸せかどうか分かるか?」

「うーん、少なくとも金で悩むことはなくなるだろ」

「そうなんだよ」

「何が?」

「金のことで悩まなくなるけれど、それが幸せかどうかは分からないだろ?」

「確かに、でも今よりは幸せだろ」

「ところがな、急に金持ちになると、確かに短期間は楽しめると思うが、その後生きるモチベーションを失う人も多いらしいんだ」

「確かに、何もしなくても生きていけると本当に何もしなくなりそう…」

「だから、金はないよりはあった方が良いと思うけれど、一つだけ願うなら違うのが良いと思うんだよ」


「じゃあ、不老不死だろ」

「たとえば50億年後に地球がなくなっても生きたいか?」

「うーん…」


「それなら死ぬまで病気をしない体はどうだ?風邪や花粉症すらない人生は快適だろう?」

「それも世界一の金持ちになるのとそう変わらなくないか?最初は快適だろうけれど、願いを叶えた本人にとっては普通のことになっていく、幸せを感じられなくなってくると思うんだ、多分ね」


「じゃあ、あれだよ、何が起きても幸せだと感じるようにすればいい、これなら死ぬまで幸せが保証される」

「そう!それが俺が考えた答えの一つ目で、自分の外側ではなく自分の内側を変えるべきだと思ったんだよ」

「なるほどね」

「ただ、この願いには問題点があって、端から見たときに完全に変人だということ」

「ああ、そうか、車に轢かれようが体がバラバラになろうが幸せなんだもんな」


「変人はちょっとなぁ、もう一つあるの?」

「まぁ、同じような願いなんだけど、幸せを感じ続けるのの逆かな」

「逆というと?」

「苦しみや痛み、悲しみを感じないようにするんだ」

「あー、まぁ、そうか、それもありか、でも願いが複数になるだろ?痛みと感情は別だし」

「それが一つで大丈夫なんだよ」


「自分の意識を消滅させればいい」

「…いやいやいや…」

「この願いの良いところはね、叶えてもらわなくても今すぐ実行可能なんだ」

「それって…」

「そう、自殺すればいい」


「これに気付くとね、あらゆる宗教が自殺を悪だと教える理由が分かるんだ」

「なんで?」

「全ての救済が自殺すれば叶ってしまうとすると、自殺を良いことにしたら多くの人が苦しんでまで生きないだろ?」

「うーん、俺は生きたいけど」

「俺たちは生まれた時からそう思わされているからだろう、特に日本では長生きは良いこととされているからね」


「うーん、まぁ、そうかなぁ…ところで宗教が自殺を悪だと教える理由ってなに?」

「労働力がなくなると権力者が困るからだよ、権力者は苦しく辛い人生を送っていないから死にたくないだろ?」

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